「教職員の長時間労働」を助長する冊子 『上尾の教育』 

 暮れも押し詰まった12/26、上尾市教委HPに今年度版冊子『上尾の教育』が掲載されました(こちら。この冊子は130頁にわたる細かい記述で、全部を読み通すのは、かなりの時間と根気が必要です。
言えることは、『上尾の教育』は、現在社会的な問題となっている教員の長時間勤務等を意識したり、学校現場の勤務の状況に配慮したものでは決してなく、「あれもこれもやれ、とにかくやれ」と詰め込んだ中身になっているという点です。つまり、教職員の長時間労働を助長するものとなっているのが特徴です。

記事No.50

■誰のための冊子なのか
 『上尾の教育』は、かなり以前から
上尾市教委によって作成され、市教委のHPでは、2015(H27)年度以降の分が掲載されています。
以前は「デジタルブック」でしたが、読みづらいということからか、
今年度の冊子は次のような構成になっています。

 第1章 教育行政・教育財政(31ページ)
 第2章 学校教育(44ページ)
 第3章 生涯学習・文化芸術・文化財(22ページ)
 第4章 生涯スポーツ・レクリェーション活動(3ページ)
これ以降は「統計・資料等」

 このように、ページ数を見ただけでも、第1章と第2章とに重点が置かれていることがわかります。
では、
この冊子はいったい誰のために作られたものか」という点ですが、教育長&教育委員&市教委事務局の職員が自らの権威付けのために「形として残しておきたい」と考えて毎年作成しているものであることは明らかです。冊子の第1章冒頭にある「歴代の教育長及び委員」など、その典型です(別の例を挙げれば、各学校の校長室に歴代の校長の写真が飾られ、校長が代わる毎におこなわれる〈掲額式〉なるイベントと、「不必要な権威づけ」という意味では、同一の性質のものであると考えられます)。

 もうひとつ言えることは「現場の教職員のほとんどは、この冊子を見ていないし、読んでいない」であろうということです。はっきり言って、現場の先生方は「市教委の、市教委による、市教委のための冊子」を読む暇など無いほど、疲弊し、追い詰められているのです。
もっとも、中には「学校経営方針」などを作成する際に「参考(剽窃とも言えます)」にする校長もいます(上平小の学校経営方針にある「目指す教師像」は『2018 上尾の教育』の「完全パクリ」です)。
 さらに、この冊子の存在をご存知の市民(保護者の方を含む)は、極めて少数だと思われますが、上尾市教育委員会の「不都合な真実」を理解するために一度目を通していただくと良いかもしれません。

■冊子『上尾の教育』の特徴
◇「目指す教師像」とは?
『上尾の教育』P.39には「目指す児童像・生徒像」「目指す教師像」がそれぞれ10項目ずつ並んでいます。これは、2017(H29)年度から記述されたものですが、児童・生徒像と教師像がほぼ同一であることが特徴です。それぞれの10項目の前に置かれている文言は、

(児童・生徒像)自分に厳しく、相手に優しくできる自己を確立し、友達や大人から「頼もしい」と信頼され、頼られる児童生徒。

(教師像)自分に厳しく、相手に優しくできる人間として、児童生徒、保護者、地域、同僚から「頼もしい」と信頼され、授業で勝負し、頼られる教師。

となっていますが、肝心なことは、これらの「像」を示した上尾市教育委員会が、どのような姿勢であるかということです。
まず想起されるのは、このブログで何回かお伝えしましたが、住民監査請求の結果、市の監査委員にも指摘された「デタラメ服務」の池野教育長です。池野氏は、自分は届も出さずに「お休みzzz」としておきながら、上尾市内の教職員には「服務の厳正を」などとする文書を頻繁に発出しており、そのことを監査委員に指摘されました。
これは、『上尾の教育』に記載されている教師像とは真逆の、まさに「自分に甘く、相手に厳しく」を地でいっています。
『上尾の教育』に「目指す教師像」として「自分に厳しく、相手に優しくできる人間」などと記載されているのは「
ブラックユーモア」とも言えますが、市民としてはとても看過することはできません。
かも、『上尾の教育』には「教職員の服務の厳正(16頁)」という文言がしっかりと記載されていることは、池野教育長の行状を考えれば、呆れるばかりです。

 「目指す教師像」の全項目を知りたい方は、市教委HPの『上尾の教育』をクリックし、39頁を見るか、または、こちらでも見ることができます。今年度の上平小(石塚昌夫校長)の「学校経営方針」の中の「目指す教師像」の中身①~⑩と全く同一だからです。このように、一部の校長には『上尾の教育』は強い味方になるでしょう。学校のオリジナリティは無視し、原文を丸写しにすれば良いのですから。

◇市教委による学校への「押しつけ」
『上尾の教育』には、「基本目標」として「安心・安全で質の高い学校教育の推進」という項目があります。この中には、読み飛ばすと、あとで「書いてあったでしょ?」と言われそうな記述があります。

 消防署の協力を得て「資格講習会」及び「資格更新講習会」を実施することにより、教職員の応急手当普及員の増員を図るとともに、全小・中学校に有資格者が在籍する体制を維持します 『上尾の教育』P15より引用

※これは「平成31年度 上尾市教育委員会の事務に関する点検評価報告書」P22に掲載されている文章とほぼ同一のものです。

 他の文言が細かく量も多いこともあり、この文は思わず読み飛ばしそうになりますが、「応急手当普及員って何?」「全部の学校に置くってどういうこと?」と突っ込みたくなる一文です。
ちなみに、応急手当普及員とは、消防庁からの文書(こちら)によれば、≪心肺蘇生法(傷病者が意識障害、呼吸停止、心停止又はこれに近い状態に陥ったとき、呼吸及び循環を補助し傷病者を救命するために行われる応急手当)及び大出血時の止血法≫の講習を受けた者のようですが、「市内全学校に必置の根拠」を確認したいところです。

 この例でもわかるように、市教委や学校現場にはありがちですが、「根拠はともかく、良いことのようだからとりあえずやってみよう」ということがあまりにも多すぎるのです。
 『上尾の教育』もそうした観点でまとめられた冊子と言えますが、ブログ筆者がずっと主張しているように、上尾市教委は、学校現場への「押しつけ」をやめて、市教委からの関与を出来る限り薄めるべきです。そうすればもっと学校現場に余裕が生まれるでしょう。

◇比較の仕方がおかしい
『上尾の教育』の「指導の重点」の中に、「学級経営」についての昨年度の評価として、次の文言があります(40頁)。

全国学力・学習状況調査の質問紙調査では、「先生は、あなたのよいところを認めてくれると思いますか」で「はい」と答えた上尾市の小学生は54.3%(全国42.5%)、中学生は35.1%(全国32.5%)となっており、全国に比べて市内の児童生徒に自己有用感が育まれている。

 まず、この質問だけで「自己有用感」が育まれているかどうか判断するのは早計だと思います。対先生との関係性だけではなく、まわりの友人が認めてくれているかもしれません。何よりもおかしいのは、「全国に比べて市内の児童生徒に自己有用感が育まれている」と分析していることです。この調査に基づくのであれば、上尾市の中学校の場合、65%の生徒は「自己有用感が育まれていない」ことになるのですから、むしろそちらのほうが問題でしょう。もともと状況が異なる全国と比較することと合わせ、「ちょっと違うのでは?」と指摘せざるを得ません。 

■現状ではとても正規の勤務時間の中では無理
「目指す教師像」ばかりではありません。[指導の重点]として、教師が果たすべき課題が、「これでもか」と書かれています。
学級経営/学習指導/生徒指導/進路指導・キャリア教育/道徳教育/教育相談/体育・健康教育/人権教育/特別支援教育/国際理解教育/情報教育(小学校のプログラミング的思考を含む)/環境教育/ボランティア・福祉教育/男女平等教育/学校図書館教育/交流及び共同学習…… これらすべてについて、数項目から10項目以上の「指導の重点」が示されているのです。また、それとは別に教科ごとに[指導にあたっての努力点]として細かい記述が延々と続きます。
「指導の重点・努力点」は教職員に配布されますが、『上尾の教育』は「これでもか」と追い打ちをかけるような記述になっています。
 小・中学校に勤務する先生方が、この『上尾の教育』に示す項目全部に取り組むためには、授業の準備や「振り返り」を含めて、膨大な時間がかかります。しかしながら、冊子『上尾の教育』には、掲げている内容が教職員の正規の時間内で出来るということは全く示されていません。過労死の要因ともなり得る長時間勤務の問題やクラス定員をそのまま放置しておいて、「とにかく冊子で示した方針で、何がなんでもやれ」というのは、問題が多すぎるのではないでしょうか。
ブログ筆者は今後もこの問題については、実証的データ等に基づき、記事にしていきたいと考えています。

■『上尾の教育』の意味不明の記述
 最後に、この冊子の記述に誤りがあることを指摘しておきます。
「生涯にわたる豊かな学びのサポート」(18頁)に、図書館に関する記述があります。
 図書館本館の改修事業のほか、分館では憩えるスペースの確保など多様な過ごし方ができるよう整備します。また、図書館本館の改修時の一時移転先として、民間施設を活用・整備します

 一方、この冊子の発刊にあたって、池野教育長は市教委のHPで次のように述べています。

 本冊子は、平成31年度の上尾市の教育行政および教育機関の諸活動の概要について、教育行財政、学校教育、生涯学習、生涯スポーツの領域に分けて収録いたしました。(以下略)

 つまり、この『上尾の教育』の内容は、2019(平成31)年度の諸活動について書かれているものであると教育長が明言しています。にもかかわらず、「図書館本館の改修時の一時移転先として、民間施設を活用・整備します」とはいったいどういうことか、意味不明です。
発行年月日が2019.12.26であることを考えれば、この記述は1月以降のことを述べているのか、それとも内容が誤っているのか、情報公開請求等で確認していく必要があります。

■このところ、当ブログ閲覧数が増加の傾向にあり、その中には、市民の方はもちろん、市役所(行政)や市教委、学校関係者も含まれているものと推測いたします。可能であれば、ブログ記事への共感や批判などをコメントとしてお寄せください。

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