岸本聡子杉並区長誕生までの映画を観て、あれこれ考えました【文末に追記あり】
見たかった映画がアンコール上映されていることを知り、ポレポレ東中野まで足を運びました。映画の題名は『〇月〇日、区長になる女。』です。
2022年の杉並区長選挙の裏側を市民目線で赤裸々に描いた、ドキュメンタリー作品です。
今記事では、この映画のことを中心にお伝えします。
【文末に追記あり=岸本区長のX(旧Twitter)2/14の投稿より】
No.355
🔸どんな映画なのでしょうか?
この映画のパンフレットには、次のように映画の紹介がされています。
東京都杉並区。57万人が暮らす緑豊かな街で住民無視の再開発、道路拡張、施設再編計画が進んでいた。 |
そんな状況のなか迎えた2022年杉並区長選挙。 住民たちは、ひとりの候補者を擁立する。 ヨーロッパに暮らし、NGO職員として世界の自治体における「公共の再生」を調査してきた岸本聡子だ。 |
しかし相手は3期12年続く現職区長。 しかも岸本聡子が日本に帰国したのは投票日2ヶ月前、さてどうする? |
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区長選の結果は、187票差で岸本候補の勝利でした。
この映画は、わずか2か月の選挙活動の間の、支持者と岸本候補との葛藤も赤裸々に記録されているという点で優れていると言えるでしょう。
映画の予告編はYoutubeで見られます(青字クリックの際、音声にご注意を)。
🔸映画監督のことば
このドキュメンタリー映画の監督であるペヤンヌマキ氏は次のように語ります。
私が住んでいる閑静な住宅街に大きな道路を通す計画があることを知りました。 計画が進むと私の家は立ち退きになってしまいます。 自分のことで精一杯で社会問題のことなんてちっとも考えてこなかった私ですが、自分の住まいが奪われる危機に直面して初めて、政治や選挙が私たちの生活につながっていることに気づきました。そして…… |
カメラを回し始めました。投票率を少しでも上げるために。 |
ペヤンヌマキ監督の目標でもあった投票率アップの結果は…
区長選投票率37.52%(前回より5.5ポイント上昇)でした。
映画の中で、「投票率を1%でも2%でも上げるというのは、本当に大変なこと」と岸本聡子さんは言います。
🔸岸本聡子さんはどんな人? 選挙で何を訴えたのですか?
(以下、公式ブログのプロフィールより抜粋)
▶1974年7月15日生まれ。東京都大田区出身。現在は杉並区西荻窪在住
▶1997年、日本大学文理学部社会学科(環境社会学専攻)を卒業後、国際青年環境NGO「A SEED JAPAN」に参加。
▶気候変動枠組み条約(COP3)に向けて、若者の全国的な温暖化防止キャンペーンを行う。欧州、ロシア、韓国から京都に来た100人以上の活動家たちを受け入れ、「気候正義を今!」を求める会議を開催。
▶2001年、日本で長男を出産後、パートナーの国であるオランダ・アムステルダムに移住。
▶2003年、国際政策シンクタンクNGO「トランスナショナル研究所(TNI)」の研究員として、世界の自治体や教育機関、市民団体とともに活動。世界各地の公共サービスの民営化の実態と、公共サービスを住民の手に取り戻す「再公営化」の事例を調査
▶2007年に次男をアムステルダムのアパートで自宅出産。言葉や文化の壁を感じながら、2人の息子の子育てを経験。多様性と包摂性のある社会の重要性を実感する
▶2008年、ベルギーに移住
▶2022年 日本に帰国。「住民思いの杉並区長を作る会」からの出馬要請を受け、4月に杉並区民に。
▶2022年6月19日の杉並区長選にて当選。7月11日、杉並区で女性初の区長に就任。
岸本聡子さんが選挙の時に公約として掲げていたのは、「公共の再生」。
もともとオランダのシンクタンクに所属していた岸本さんは、欧州を中心として各地の自治体に広がる水道、電気、教育などの公共サービスの再公営化にかかわってきました。
区長選でも、市場化された公共財を「みんなのもの」として取り戻し、地域経済の重視、多様性の尊重、公的雇用の安定など、誰もが暮らしやすい持続可能な地域を目指すことを訴えて当選しました。
🔸映画のキーワード [municipalism] とは
地方自治体を意味する[municipality]に由来し、地方主権を大切にした新しい政治運動のことを指します。
[municipalism] をあえてカタカナ表記すると「ミュニシパリズム」となり、「地域に根付いた自治的な民主主義や合意形成を重視する考え方や取り組みのこと」の意味です。
🔸映画への思いや感想など(パンフレットから)
畠山理仁さん(フリーランスライター) |
真面目な人ほど悩んでいる。自分たちの声をどうやって政治に反映させるかを考え抜いている。そんな人たちには、ぜひこの映画を観てもらいたい。ここには民主主義の根幹であり、大切な意見表明の機会である「選挙」の肝が詰まっているからだ。とりわけ、民意の萌芽と葛藤、成長過程と小さな結実、そして未来まで描かれていることに価値がある。大いに参考にしてほしい。 |
町山広美さん(放送作家・書店「BSE」店主) |
この映画には、各自が好きな時に、できるかたちで、合うところで協力して、合わないところは別々に、そうやって選挙を支援することも政治活動をすることもできるかもしれないという具体例が記録された。 「この国では、権力者に都合のいいように、選挙のやり方が壊されている」。岸本さんの指摘は的確だ。それぞれが些細な欲望を、望みをおろそかにしたら、今いるここはもっともっと壊れてしまう。 |
佐久間裕美子さん(文筆家) |
杉並区に暮らす人たちが、見たことのない光景を見せてくれた。再開発に反対する運動が少しずつ大きくなって、政党とは一線を画したまま運動のうねりを作ったこと、その市民の運動が区長の候補を選んだこと、コモンや公営施設・制度の大切さやジェンダー平等を訴える候補に賛同する普通の人々が、選挙に参加して、誰に頼まれたわけでもなく路上に立ったこと、そして、既得権益や経済界の方向ばかりを見てきた現職候補を打ち負かしたこと ー こうしたことすべてが、知らなかった希望を与えてくれた。 |
🔸区長選後の変化
僅差で勝利した区長選の10か月後におこなわれた杉並区議選(定数48)では、「男性32、女性15、欠員1」から「女性24、男性23、性別非公表1」と女性多数になりました。
この結果、
「女性議員が半数となることで議会での質問テーマが幅ひろくなり、より活発になりました。これまでも、ジェンダー平等推進や女性の視点にたった防災対策、環境・気候危機などの質問はありましたが、女性議員が増えたことにより、取り上げる議員も増え、質問の内容もより幅広くなりました。また、子育て中の議員も増え(男女問わずですが、特に母親が増えた)、子どもの居場所や障害者施策、不登校問題などについて、自分の経験や実感にもとづいた質問・提案を行っていることも歓迎しています。」(日本共産党杉並区議員団)
との評価もある一方で、
「これまでの議会で見られなかったような女性区長および新人女性議員への侮蔑的な態度がヤジなどに顕著に表れています。これは、以前より内在してきたミソジニーが顕在化したものと捉えています。新人女性議員が発言を躊躇するようなことが起きれば、代弁されるべき大切な区民の声が失われることになると受け止めており、議会内でのハラスメント行為への対策に取り組む必要性を認識しています。」(立憲民主党杉並区議員団)
との指摘もされています(議員団のコメントはNHK『首都圏ナビ』を参照しました)。
🔸上尾市との決定的な違いは「タウンミーティング」の有無
映画の中で、岸本聡子区長は自分の名前についてこのように説明しています。
「さとこ」の「さと」は、「公の心を聴く」という意味です。
だから私は、区民のみなさんの話をよく聴くことにしているのです。
このような姿勢もあり、岸本区長誕生以来、区民と区長が話し合う
「聴っくオフ・ミーテイング」がすでに13回開催されています。
以下は、杉並区のHPからの引用です。
日頃、区との接点の少ない若い世代の方々を含めた幅広い世代の声を受け止めていくために、区民と区長が、その時どきの行政課題をテーマとして直接意見交換を行う「聴(き)っくオフ・ミーティング」を開催しています。
今までにおこなわれた「聴っくオフ・ミーテイング」のテーマは ⇒
*杉並らしい子どもの居場所づくり
*人と環境に優しい自転車の街・杉並
*杉並区立学校の『給食費無償化』を語り合おう
*みなさんの公共施設のこれから
*グリーンインフラから始める水害対策
など、13テーマとなっています。
🔸上尾市では「市長と対話するタウンミーテイング」開催はゼロ
岸本区政の話から現実に引き戻される感じがしますが、上尾市ではどうでしょう。
市長が市民と語り合う場は皆無(教育長もゼロ)です。
言うまでもありませんが、祭りやイベントで市長があいさつしたり歓談することと、テーマを設定したうえでのタウンミーティングとは、全く違います。
2月10日に、上尾市のHPに「市長公約(2期目3年目)の上尾市の取り組み状況」が掲載されましたが、「市民とのタウンミーティング」に関する取り組みはゼロでした(そもそも、市民との対話については、畠山市長は公約に挙げていません)。
そうなると、市のHPの以下の文言が非常にむなしく見えてしまいます。
市長も教育長も「市民との対話」の実績がゼロなのに、HPに「市民対話」として「アンケートの実施」ばかり掲載しているのは、もうやめませんか?
市民と対話をするということは、杉並区のように、テーマを決めて市長なり教育長が市民と率直に意見交換をすることなのです。
これについて情報公開請求したところ、広報広聴課は「ご指摘の点はわかるが、技術的な問題で変更できない」などと言っていますが、意味がよくわからないですね。
🔸「おかしい」と思ったら調べましょう
今記事では、岸本聡子杉並区長誕生の映画の話を中心に、最後は上尾市との違いについてお伝えしてきました。
記事の中では触れませんでしたが、上尾市長については、別件で「あれ?おかしいな」と思うことがあります。当ブログの方針として、「おかしい」と考えたら、そのままにはしません。情報公開請求等で徹底的に調べるつもりです。
今後とも、当ブログでは、上尾市政が少しでも岸本杉並区政の優れた取り組みに近づくように問題提起をしていきます。
なお、映画『〇月〇日、区長になる女。』アンコール上映は、2月21日まで。
(1日1回の上映で、上映時間は2時間弱です)
予約の方法や上映時間など詳細は、ポレポレ東中野HPをごらんください。
【追記】岸本聡子さんのX(旧Twitter)2/14投稿より ※音声に注意
12日から第一回区議会定例会が始まりました。大きな施策は記者会見でお伝えしましたが、ここでは予算額が小さかったり予算に載ってこないようなもののなかで、重要だと思ういくつかについてお話ししています。
ぜひご覧ください! #図書館司書 #会計年度任用職員 pic.twitter.com/bveIrCllmR— 岸本聡子オフィス広報 (@satokokishi2022) February 14, 2025