やはり「監査委員は悪行をなす執行機関の防壁にすぎない」のか?

過日私が起こした「住民監査請求」(=上尾市職員措置請求)の結果が監査委員事務局から手交されました。残念ながら、監査委員の判断は「棄却」でした。
今記事では、今回の監査請求についての現時点での状況などについてお伝えします。

No.213

🔶「身内を守る」ための監査なの?
 当ブログの記事(No.205)でお伝えしたとおり、そもそも今回の住民監査請求のきっかけとなったのは、
①昨年夏の緊急事態宣言の最中、上尾市民には「リスクを徹底的に避けましょう」と呼び掛けておきながら、自分たち(市長や教育長ら)はシレっと記念撮影をしていることが記事として市のHPに掲載されたこと。
②その写真を見て、「これはおかしいのではないか」と強い違和感を持ったことでした。

同時に、「市民による監視の強化」を含む「上尾市西貝塚環境センターの入札に関する第三者委員会報告書(再発防止策実施状況報告書)」の提言に背中を押されたこともあり、証拠書類を揃えた上での監査請求となったのです。


「再発防止策実施状況報告書」(2021年11月)より

しかしながら、結果的に「勧告」には至りませんでした。
とりわけ私が納得できないのは、監査結果の中に、情報公開請求をおこなったにもかかわらず、私には全く知らされていなかった「事実」が記述されていることです。
請求した市民には「文書不存在」としながら、「実はこうでした」と監査委員に示すのは、「後出しジャンケン」とも言える「姑息な手法」であると思います。

今記事のタイトル「監査委員は悪行をなす執行機関の防壁にすぎない」という言葉は、住民監査請求のあり方についての研究者である田中孝男著『住民監査請求制度がよくわかる本』(公人の友社,2017年)からの引用です。住民監査請求をおこなっても、実際には監査委員が防壁のごとく行政側を守る役目を果たしている実態を鋭く指摘しています。

今回の住民監査請求は、まさに「身内を守るための監査」となったと言えます。
ですが、これからも市民による市政の監視の必要があることに変わりはありません

🔶要望が反映され、監査結果は市のHPに掲載されています
当ブログの記事(No.206)に書きましたが、市民が傍聴できる「請求人の口頭陳述」の案内が、市のHPの「情報公開・会議の公開」メニューには掲載されませんでした。
上尾市のHPをよく見る人でも、通常では「組織でさがす → 監査委員事務局」へは行かないでしょう。何のためにトップページに「情報公開」という文言が入っているのか、上尾市は市民に知らせていく責務があるはずですが、今回、「情報公開・会議の公開」メニューは使われませんでした。

他の情報公開請求で広報広聴課の職員と面談する機会があったので、「監査結果等については結果の如何にかかわらず、上尾市のHPに掲載してほしい」旨を伝えました。
その要望が広報広聴課と監査委員事務局双方に受け入れられ、昨日夕方から上尾市のHPの「新着情報」(住民監査請求の結果)として上尾市のHP(トップページ)に掲載されたのは一歩前進したと言えるでしょう(監査委員事務局のページでは「パラリンピックイベント出演料の返還に係る監査請求」となっています)。

🔶「監査対象事項」について
今回の「監査結果」には、「監査の実施」として、次のような記述があります。

監査対象事項(5頁) ※色替えはブログ筆者によります
本件請求は、令和3年8月19日に実施予定だった「東京2020パラリンピック聖火ビジット」に伴うパラスポーツ競技体験イベントが中止されたにもかかわらず、イベントゲスト出演料として報償費を支出したことは不当な公金の支出であるとして、教育委員会及び支出に責任を有する決裁者に対し、当該不当な公金の支出について返還するよう措置要求があったものである。
したがって、令和3年8月27日にスポーツ振興課が起票した支出負担行為票兼支出命令票に基づく報償費 100,000円 の支出が、不当な公金の支出に該当するかを監査対象とした。

住民監査請求の対象は「違法又は不当な財務会計行」とされていることから、上記のような記述になることは、やむを得ない面もありますが、市民が監査請求に至るまでの背景についても考慮するべきではないでしょうか。
今回の監査では、市民に疑念が生じたこと、すなわち住民監査請求のきっかけになった点についての言及はありません。

🔶「事実関係」の確認
「監査結果」には、事実関係の確認として、(1)聖火ビジット と (2)報償費の額 について言及されています。疑問に思うのは「聖火ビジット」についての次の記述です。

ウ 懇談(6頁) ※色替えと下線はブログ筆者によります 
8月19日に岡田選手が市役所を訪問し、市長外6名と懇談したことが、市ホームページ及び広報あげおに掲載されている。関係職員の事情聴取によると、懇談はパラスポーツ競技体験イベントの代替ではなく、当初から聖火ビジットに伴うイベントの一つ「ゲスト対応」として予定されていたものであり、パラスポーツ競技体験イベントの開会式前の空き時間を利用して市民体育館で行われる予定だったとのことである。

市のHPや『広報あげお(9月号)』には、岡田選手が市役所に訪問して市長と懇談したと言う記事は掲載されていますが、「聖火ビジット」のために上尾市が招いたとはひと言も書いてありません
また、朱書き部分については、情報公開請求で「聖火ビジット」の予定について開示された文書・資料のどこにも「ゲスト対応」という記述は見当たりません。
つまり、これは「後出しジャンケン」そのものであり、「請求人がいないところでは、どんな内容の言い訳をしているか分からない」典型であると言えます。

もうひとつは、報償費(出演料)の関係です。

(2)報償費の額 ※色替えはブログ筆者によります。
 関係職員の事情聴取によると、国内アスリートに対して主催イベントと等への参加又は後援等を依頼した場合の一般的な相場は、約1時間から1時間半の拘束時間で、交通費等経費別で、200,000円から1,000,000円とのことである。
 今回については、岡田選手が上尾市出身であることや岡田選手の市における過去のイベントの出演実績等を考慮し、拘束時間の長短に関係なく100,000円でお願いし、相手方と合意に至ったとのことである。

このスポーツ振興課の言い訳も初耳です。
私は今回の住民請求に至るまでに、何度か情報公開請求をおこなっています。
その中には、以下の「非公開処分」も含まれています。

IMG_20220326_0001

なぜ、監査委員は私が提出したこの証拠文書よりも、スポーツ振興課の口頭による「言い訳」を採用したのでしょうか。

岡田選手に支払った100,000円の根拠となる文書・資料は正式に「不存在」であるということが示されています。しかも、この文書については、担当課が言い逃れすることがあるかもしれないと考え、「新たな証拠」として提出したものなのです。
一方、「一般的にはアスリートに出演を依頼すると20万円から100万円が相場」というのは、「だから10万円くらいで目くじら立てるな」とも言いたげな、それこそ不必要な情報です。

これらのことを見ただけでも、住民監査請求が「勧告」に至るのはわずか 3%程度であるという現状、すなわち、「監査委員は悪行をなす実施機関(=行政側)の防壁にすぎない」と言われる理由が見えてくると言えます。

🔶監査結果を受けて、市民としてどうすればよいのか
まず、今回の監査の結果を見て、上記のような矛盾点を含め、監査請求がどのようにおこなわれたのか、どのような文書や資料を参照したのかについて情報公開請求します(これは監査委員事務局に伝えてあります)

さらに、「監査の結果」の最後にある次の「意見」も、極めて行政に寄り添ったものであり、市民が起こした住民監査請求を軽視したものであると言えます。

4 意見(8頁) ※色替えは請求人によります。
 本件監査の結論としては上記のとおりであるが、監査を実施する過程において、スポーツ振興課と株式会社ビックカメラとの間で合意した内容のその後の変更について担当課の記録が乏しかった
 コロナ禍において通常の対応と異にせざるを得なかったという事情があったにせよ、行政の説明責任を果たすため、必要な記録を作成し保存する必要がある。
 ついては、今後、適切な記録の管理が行われることを望むものである。

この「意見」は、「担当課の記録が乏しかった」とだけ述べていますが、何と何が無かったのか、不十分だったのかについては、本文でも言及していません(意図的であれば、極めて悪質です)。また、今後のことについての希望を語っていますが、問題は、今回の住民監査請求に至る背景や実際の支出についてなのです。

監査委員が言う「今後、適切な記録の管理が行われることを望む」は、スポーツ振興課に限ったことではないことは自明です。
市民による市政への監視は、「第三者委員会」の提言にあるとおり、大変重要です。
これからも、引き続き当ブログでは市政・市教育行政に対して市民的視座から注意深く見ていき、必要に応じて情報公開請求をしていきたいと考えています。