「卒業」の季節に思うこと

3月は「卒業」の季節ですね。
今の学校を卒業し、次の学校に進む方や社会に出る方。
あるいは、長く勤めた仕事や、様々な役目に区切りをつける方など
「卒業」はそれぞれの人生の節目で
あると思います。

かく言う私も、この3月、慶應義塾大学文学部(通信教育課程)を卒業しました。
単位取得に苦心していた時期は「卒業は厳しいかな」と考えたこともありましたが、いざ卒業となると、
むしろ淋しいような心持ちになってきたというのが正直なところです。

今記事では、私自身の慶應通信卒業と、それに関連する(と思える)ことをお話します。

No.214

🔶「学び」を通じて得られる知見と喜び
私が入学したのは、2015年春(慶應通信には、春入学と秋入学があります)。
ですから、7年間在籍したことになります。
慶應通信は社会人が多数ということもあり、卒業に至るのは、入学者の内5~10%程度と言われています(入学の状況が人それぞれ異なり、中途退学する方も多いため、実際の比率はわかりませんが)。

慶應通信で学ぶことの良い点は多々ありますが、「学費が安い(通学部の約6分の1)」「選択できる科目数が多い」「スクーリングなどで質の高い講義が受けられる」「丁寧な卒論指導」「受講生が皆前向きで熱心」などが挙げられます。
学生は、自主的に慶應通信を選び、自分の選択した分野について学んでいます。
そこで、あらためて「学び」を通じて新しい知見を得て、学問をすることに喜びを見出すことになると思います。まさに『学問のすゝめ』です。
なお、卒業に際して授与される「学位記」に「通信教育課程卒業」とは入りません。

🔶慶應義塾の理念とは
慶應義塾では、「先生」とは福澤諭吉のみを指します。あとは教職員も学生も全て「君(くん)」づけです(とりわけ卒業に際してなど)。
また、卒業生は「塾員」、学生は「塾生」と呼ばれます。
私はとりわけ「半学半教」「独立自尊」という慶応義塾の理念に共感します。

慶應義塾の理念
「半学半教」 教える者と学ぶ者との師弟の分を定めず、先に学んだ者が後で学ぼうとする者を教える。教員と学生も半分は教えて、半分は学び続ける存在という、草創期からの精神です。
「独立自尊」 「心身の独立を全うし、自らのその身を尊重して人たるの品位を辱めざるもの、之を独立自尊の人と云う」。自他の尊厳を守り、何事も自分の判断・責任のもとに行うことを意味する、慶應義塾の基本精神です。
(「義塾」の意味) もともと漢籍に義塾の用例はありますが、福澤諭吉は英語の  ”パブリック・スクール”  を参考に、この言葉に新しい知識のための学塾という意味を込めました。

🔶慶應通信での学び
慶應通信は文・経・法の各学部があり、端的に言えば「入るは易し、卒業は難し」と言えるでしょう。
私は「テキスト科目(21科目 46単位)」・「スクーリング(17科目 32単位)」・「卒論(8単位)」に取り組んできました。学士入学として40単位の認定を受けていたにもかかわらず、卒業まで7年かかったのは、テキスト科目の履修に時間をかけた(否、かかった)からです。

スクーリングはコロナ禍の前に必要単位は取得したので、三田と日吉のキャンパスで対面の授業を受けることができました。その中では、子どもの貧困を扱った「社会学特殊」など、興味深い科目が多く、大変充実しており、「学友」も増えました。
一方、テキスト科目は、言わば「孤独な学習」と言えます。私の学習方法は、①とりあえずテキストを通読する(とは言え、500頁近くある「教育学」「教育史」などのテキストは読みごたえがあります)。②課題を吟味し、参考文献に目を通す。③それらを踏まえて自分の考えをレポートに反映していく、というのが基本です。

また、慶應通信には、「埼玉慶友会」などの大学公認の学生組織があり、そこでは定期的な情報交換会や、大学の教員を招いての講義が年に何回か開催されています。私も数年間役員を務めましたが、会員間でお互いに励まし合うなど、大変助かりました。

🔶卒論の「序文」と「梗概」
私の卒論は【公立図書館における「一部奉仕外部委託」運営方式の現状と課題】です。
きっかけとなったのは、3年ほど前に上尾市図書館についての疑問が生じたことです。
なお、当ブログでもその疑問点について記事(No.14)
にしています。

卒論自体はA4版で64頁ほどあるので、全部を掲載するわけにはいきませんが、ここでは「序文」の一部と「梗概(こうがい=卒論の概要)」を引用します。

卒論「序文」より一部を引用
 筆者は埼玉県上尾市図書館本館を頻繁に利用しているが,近年,利用にあたって二つの疑問が生じた。その一つは,カウンター脇の「レファレンスコーナー」に職員が常時不在であることに対しての疑問である。デスクと椅子が置かれ,「探してほしい資料がある場合は、お気軽にお尋ねください」との表示があるが,職員が常駐している気配が全く無い。本研究の過程で判明した事実は,貸出・返却等のカウンター業務の担当は外部委託スタッフであり,資料等の問い合わせがあった場合には,委託スタッフがカウンター業務の手を休めて対応し,間に合わない場合は,市の図書館職員が資料紹介等のサービスをおこなうという事実である。
 もう一つの疑問は,上尾市図書館では,祝日は開館日であるにもかかわらず,2019年5月1日を「天皇の即位の日」という理由で休館日としたが,近隣の自治体では同様の例は無かったのである。これについても本研究の過程で,当日を休館日にしないと,カウンタースタッフが20日間にわたっての連続勤務となり,「シフトが回らない」ので,休館日とせざるを得なかったという事情が判明した。 
 筆者が抱いた疑問については,事情が判明した部分もあるが,カウンター業務の外部委託スタッフについては,雇用状況はもとより,業務の守備範囲については,通常は利用者に知らされることはないと思われる。こうした資料の貸出・返却業務や利用者向けのサービスの実態を含め,市立図書館の運営方式について関心を持ったのが本研究の動機である。
 本研究で明らかになったことであるが,上尾市図書館と同様にカウンター業務などの一部奉仕を外部に委託している運営方式,つまり「一部奉仕外部委託」運営方式は,埼玉県内のみならず全国の公立図書館で見受けられる。本研究は,同様の運営方式を採用している図書館への質問紙調査およびその中の2市を対象とした事例調査を中心にして,市立図書館における「一部奉仕外部委託」運営方式について考察するものである。(以下略)
卒論「梗概」
 従来,公立図書館の運営については,「自治体の直営館か,それとも指定管理者制度導入館か」という視点から議論がされてきた経緯があると思われるが,その一方で,図書館運営方式の多様化も指摘されている。本研究は,公立図書館の運営についての議論や先行研究を踏まえたうえで,とりわけ市立図書館における「一部奉仕外部委託」運営方式に焦点を当てるものである。したがって,研究の目的は,カウンター業務などの一部奉仕について,自治体の職員ではなく,外部に委託する方式で運営している市立図書館の現状と課題について考察することである。
 まず,第Ⅰ章において,本研究の目的を示したうえで,研究の射程および研究方法について述べる。
また,本研究の目的に沿った二つの課題を呈示する。すなわち,課題の一つ目は,図書館運営の手法と業務委託のメカニズムを明らかにすることであり,二つ目は,そうした運営手法が包含する問題点を浮かび上がらせることである。
 次に第Ⅱ章では研究の前提として,公立図書館設置と運営における業務委託をめぐる経緯や法的背景,さらに業務委託を含めた図書館運営方式に関連した従来からの議論や先行研究を整理する。
 第Ⅲ章では,本研究において実施した質問紙調査について述べる。すなわち,「一部奉仕外部委託」運営方式を採用していると思われる全国の市立図書館を対象に実施した質問紙調査とその回答についてまとめる。この調査には,全国43市から回答が寄せられているが,中でも,「指定管理者制度を導入していない理由」,あるいは「一部奉仕外部委託」運営方式についての利点と課題についての自由記述による回答は,各市立図書館の現状を反映していると考えられ,本研究の一つの柱となるものである。
 続く第Ⅳ章では,質問紙調査に回答を寄せた市から抽出した2市(埼玉県上尾市および茨城県牛久市)の図書館についておこなった事例調査について述べる。とりわけ,外部に業務委託をする前と後とで,利用者へのサービスなどがどのように変化したのかについて,公表されているデータ等から明らかにする。
 最終の第Ⅴ章では,第Ⅰ章から第Ⅳ章までおこなった研究により得られた新たな知見を明らかにし,さらなる研究の課題について述べる。

公立図書館の運営については、自治体の直営館・指定管理者制度導入館・一部業務委託館に大別できます。全国には上尾市図書館と同様に、外部(企業、公社、NPOなど)に図書館奉仕(利用者サービス)を委託している公立図書館が多数存在します。しかしながら、公立図書館がどのように運営され(=自治体直営館か、指定管理者制度導入館か、それとも一部奉仕外部委託方式なのか)、そこにはどのような問題があるのか、などについては、一般の図書館利用者はあまり関心が無いかもしれません。ましてや、2000年代の初頭に、公立図書館における「無料貸本屋論争」があったことなど、知る人は少ないでしょう。
「梗概」にある「質問紙調査」は、そうした図書館への質問であり、サンプル数こそ異なるものの、日本図書館協会が同様の調査をして以来、10年ぶりの調査となっています。

この卒業論文を執筆することによって、私は新たな知見を得ました。すなわち、上尾市図書館がどのような運営と利用者サービスを展開しているのか、それに携わるスタッフの任用形態(市の正規職員・会計年度任用職員・ナカバヤシ㈱の委託スタッフ)はどうなっているのかということです。

また、図書館法に定められた職名としての司書や司書補がいない問題、館長が司書有資格者ではないという問題、さらには図書館協議会自体の資質に関わる問題、etc.   これらの問題については、折に触れて当ブログでも取り上げてきました。
今回私が執筆した卒業論文は、私自身の好奇心や疑問の解消からスタートしていますが、今後とも強い関心をもって、図書館にかかわっていきたいと考えています。

🔶慶應通信は「おすすめの学問の場」
今記事では、私がこの3月に卒業した慶応義塾大学通信教育課程と、卒業論文について述べてきました。当ブログをお読みの方で(ご家族や知人も)、経済的理由で四年制大学を諦めている方(上述のとおり、学部は文・経・法のみですが)や、「学び直し」を望む方、通信教育に興味・関心のある方がおられましたら、何かしらアドバイスが出来ると思いますので、「お問い合わせ」経由でご連絡ください。

※なお、詳しくは慶應通信の入学案内を参照してください。
また、2021年度卒業式(学部と合同。文学部は3月23日午後)の様子はYoutubeで配信されています。

“「卒業」の季節に思うこと” への2件の返信

  1. 卒業おめでとうございます。
    卒業証書は何枚目ですか?

    1. ありがとうございます。
      3枚目ですね。やはり最後が一番きつかったです。

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