監査委員は「悪行をなす執行機関の防壁にすぎない」のか?(追記あり)

 先日来、当ブログでお伝えしてきた<住民監査請求>の結果が監査委員(事務局)から公表されました。結論から言えば「監査委員側が、恣意的に公用車を使用する教育長を守った」ことになりますが、この結果から、上尾特有の問題も含めて、様々な問題が見えてきました。

追記
当ブログ「お問い合わせ」等を経由して、ご意見やご感想などをいただいています。

「金額は小さくても、どんな監査結果がでるか大いに注目しています」(T.Sさん)
「定期的に勉強させて頂いてます。これからも定期的に拝見させて頂ければと思います」(T.Kさん)
 ご意見・ご感想、ありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします(ブログ筆者より)。

記事No.92

■<住民監査請求>の結果と問題点は?
 6月22日、ブログ筆者は上尾市監査委員事務局から「住民監査の結果を渡すので、市役所に取りに来てほしい」と呼び出されました。その結果は、すでに監査委員事務局のHPに掲載されています。
この結果にかかる問題点や疑問点については、次のように整理できます(朱書き等はブログ筆者によります)。

(監査結果)《事実関係の確認》4頁
関係職員への事情聴取によると、本件出張にあたっての公用車の使用は、適正な手続きにより行われているとのことであった。
(上記監査結果についての問題点・疑問点など)
適正な手続き」とは何か?
教育長が宿泊している間に上尾まで公用車をトンボ返りさせることが「適正」なのか?
(監査結果)《判断》
公用車の使用そのものについては、公務を機動的かつ円滑に務めるための移動における迅速性の確保等の観点から広く裁量が認められるものであって、移動距離や所要時間のほか、さまざまな事情を勘案し決定されるべきものであると考える。
(上記監査結果についての問題点・疑問点など)
総会会場のホテルは松本駅の目の前にあり、しかも2日間会場変更はしていない。電車のほうが安全性が高く所要時間も変わらない。ゆえに「公務を機動的かつ円滑に務めるための移動における迅速性の確保」というのは理由にならない
また、「さまざまな事情を勘案し」と監査の判断として述べているが、それが何かについては全く言及されていない
(監査結果)《判断》
他の交通手段との経費の比較のみによって、直ちに地方自治法の規定に抵触し、違法又は不当であったとまでは言えない。
(上記監査結果についての問題点・疑問点など)
少なくとも2倍以上経費がかかっていることは事実である。
さらに、教育長による恣意的な公用車の使用について「判断」しないのは適正な監査なのか?
請求人は、2020年4月1日に定められた《上尾市監査基準》第2条(財務監査) 財務に関する事務の執行及び経営に係る事業の管理が法令に適合し、正確で、最小の経費で最大の効果を挙げるようにし、その組織及び運営の合理化に努めているか 監査すること 。
以上を信頼して住民監査に至ったものであり、上記「判断」は市民の監査委員に対する信頼を著しく損ねるものである。

 以上整理しただけでも、今回の住民監査結果は不当極まりないものであることは明白です。ブログ筆者は、疑問点を指摘したうえで、監査の中身について情報公開請求をしていくつもりです。

■実は触れられたくない話題だったのか?
 上尾市の公用車は、市長と市議会議長は専用車。副市長と教育長は総務課が管理するエスティマとカムリを空いている時に使うことになっています。また、監査委員は3名。内2名は税理士の方で、あとの1名は「市議会議長経験者」(つまり、以前公用車を使う立場にいた方)です。
今回の住民監査請求の本質は、《教育長が恣意的に公用車を使用していることに対する市民からの疑念》ということに集約できます。
あくまでもブログ筆者の推測ですが、監査委員の方の中で、「(市長や議長の公用車使用に繋がるかもしれないので)、教育長の公用車の使用については、あまり突っ込んでほしくない」と考えた方がいたとしても不自然ではないでしょう。

■文献や事実関係を通じての指摘は?
住民監査請求の提起件数と監査結果(2016~2017年度)として、次のようなデータがあります。
(『地方自治月報』59号。全国市区町村分)。 

市区町村 合計 1,221件   100.0%
取り下げ 26件 2.1%
却下 579件 47.4%
棄却 527件 43.2%
勧告 41件 3.4%
合議不調等 5件 0.4%

 ごらんのように、「勧告」にたどり着くのは、わずか 3.4%です。ですから、ブログ筆者も請求人の一人に名を連ねた、例の「ブロック塀事件」の住民監査請求が「勧告」となったのは、極めて数少ない例と言えます。むしろ今回のような「棄却」が普通とも言える状況なのです

田中孝男『住民監査請求制度がよくわかる本』公人の友社,2017年では、このような状況について、「勧告」が少なすぎると指摘したうえで、次のように警鐘を鳴らしています。

このようなことが続けば、住民からも、識者からも、監査委員は悪行をなす各執行機関の防壁にすぎないとの不信感を助長しかねません。

 この指摘のとおりであり、今回のようなことが続くと、市民にとって監査委員とはどういう役割を果たしているのか、ということになってしまうでしょう。
この4月から「監査基準」を作ったのですから、実効ある監査をおこなってもらいたいと思います。