強制的「委嘱研究」の弊害 -上平小の実態から(1)-
上平小では、明日(11/28)「英語」の教科化を先取りしての委嘱研究発表会が実施されるとのことです。今記事では、その弊害についてお伝えします。
記事No.42
■「委嘱研究」発表会のパターン
現在、上尾市内小中学校33校は、例外なく市教委による「委嘱研究」を強制的に受けさせられています。
委嘱の内容は様々ですが、研究主題やサブテーマには「主体的に行動できる児童」や「豊かな心があふれる○○っ子の育成(〇〇には学校名が入ります)」など、耳触りがよく、情緒的なキャッチフレーズが並びます。
委嘱研究発表とは、「研究授業」の担当となった教員の授業を市教委の「指導主事」や他校の校長や教員が参観し、終了後は研究授業者を囲んでの研究協議&全体会での講評、というのが通例のパターンとなっています。準備段階で、発表校の先生方は全員が授業の「指導案」を市教委に提出し、checkを受けます。
このとき、小学校経験しか無い「指導主事」が中学校のベテランの先生の指導案を見るということも起きているのです。
発表前日には指導主事が学校に来て、掲示物や下足箱の来賓表示の位置を確認することもあります。つまり完全に「イベント化」しているのが実態です。
■「主催者」が最も気にすることとは
主催者である発表校の校長や市教委の最大の心配事は「参観者が集まるかどうか」ということです。なぜなら、せっかく発表するのに、指導主事の人数よりも参観者が少なくては「盛り上がらない」からです。
市教委事務局委指導課が考えた方策は「各学校から強制的に人を集める」ことです。参観者は確保できるかもしれませんが、参加する側は大変です。いくら校長でも、年度内に11回も研究発表を見に行く暇は無いということで、近頃は同一日に2校発表となりましたが、もともと無理筋だったという証でもあります。
■「教員の働き方改革」に逆行する校長の態度
上平小学校では、研究委嘱を受けるに際し『研究紀要』を作成しています。その冒頭、校長あいさつの中身を見て、ブログ筆者は非常に驚かされました。
(以下、H30・31年度上平小『研究紀要』から一部引用)
「とりわけ、本市小学校においては、外国語活動の先行実 施に取り組むこととなり、本校でも、週時程・日課の編成に創意工夫を重ねながら、3・ 4年生においては週1時間、5・6年生にあっては、週2時間の外国語活動の授業をやり 抜いてまいりました。この実績は、業務の負担軽減には逆行しながらも、教員としての使 命感と授業力の向上に繋がったものと考えております」
つまり、上平小の校長(石塚昌夫氏)は、教員の長時間勤務を少しでも解消していくことよりも、自分が市教委から受けた委嘱研究を重視し、「業務の負担軽減には逆行」することを自ら認めているのです。
「とにかく四の五の言わず働け。そうすれば教員の使命感につながるから(=校長の思い込みの強要)」というわけです。まさにブラックの働き方であり、こんな横暴な校長の態度が許されるものではありません。しかも、『研究紀要』を受け取った市教委も、校長に対して何も言わないのは同罪と言わざるを得ません。
さらに、先生方に無理を言って「外国語活動の授業をやり 抜いてまいりました」という石塚校長の弁の結果は数字にも表われています。
■文科省の基準を大幅に超えている年間授業数
下の表は、上平小の昨年度の年間授業時数です。
1学期 | 2学期 | 3学期 | 年間 | |||||||
学年 |
計画時数 | 実施時数 | 計画時数 | 実施時数 | 計画時数 | 実施時数 | 年間計画 時数 |
年間実施 時数 |
文科省の基準 | 超過授業時数 |
1年 | 275 | 317 | 350 | 369 | 225 | 238 | 850 | 924 | 850 | +74 |
2年 | 312 | 338 | 364 | 380 | 234 | 256 | 910 | 974 | 910 | +64 |
3年 | 335 | 355 | 392 | 403 | 253 | 274 | 980 | 1032 | 945 | +87 |
4年 | 347 | 369 | 405 | 415 | 263 | 282 | 1015 | 1066 | 980 | +86 |
5年 | 347 | 369 | 411 | 415 | 257 | 270 | 1015 | 1054 | 980 | +74 |
6年 | 345 | 358 | 409 | 415 | 261 | 271 | 1015 | 1044 | 980 | +64 |
このデータを見れば、各学年とも明らかに文部科学省の定めた年間授業数を大幅に上回っています。
授業時数が多いということは、取りも直さず先生方の負担が増え、授業をこなすのに精一杯で、余裕が無くなるということなのです。結局はひとりひとりの子どもたちに向き合う時間も削られることになります。
一方、学力はどうかと言えば、向上しているという成果は実証的データとして公開されていません。委嘱研究は、結局先生方の余裕を奪うことに繋がるのです。
校長も市教委事務局も、執拗に「授業数確保を」と言いますが、大幅に超えた授業数に関して言及することはありません。
■研究委嘱は希望制にすべき
強制的な委嘱研究(特に小学校の英語)は、以上の観点以外にも弊害が認められます。それらのことについては、別の機会にお伝えしたいと思います。
今、上尾市教育委員会として真剣に考えるべきことは「強制的な委嘱研究がもたらしている弊害は何か」を検証し、学校側からの希望制に変えること。
また、委嘱研究発表の際に来校する「指導主事」に対する学校現場側からの評価のシステムを構築すること、すなわち、本当に現場の先生方の授業を「指導」する力のある指導主事が来校しているのかどうかを見極めることではないでしょうか。