「家庭教育支援員は退職校長用に市教委が置いた職」説を検証(後編)

前記事に引き続き、「家庭教育支援員は退職校長用に上尾市教委が置いた職である」という仮説について検証します。
今記事では、
③募集の経緯(家庭教育支援員の募集方法は?)

④本来の家庭教育支援員とは何か(文科省の方針との整合性)
以上を検証したうえで、
⑤結論を導き出していきます。

No.270

③募集の経緯(家庭教育支援員の募集方法は?)
このことについては、まず、会計年度任用職員としての「家庭教育支援員」の任用形態などについて情報公開請求しました。請求の内容とその結果(処分)は次のとおりです。

情報公開請求の内容 結果(処分)
「家庭教育支援員(会計年度任用職員)」の任用開始時(2020年4月)である場合、2020(令和2)年度・2021(令和3)年度の「家庭教育支援員」の氏名・任用形態・任期等が判別できる文書・資料等 一部公開
各年度の「任命書」だが、報酬の等級・額については黒塗り。

公開されたのは各年度1名分の「任命書」です(同一人物)。つまり、「家庭教育支援員(会計年度任用職員)」は年度に1名任用されているということになります。
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ここではマスキングしてありますが、実際には任用された個人名も判別できます(職名は2020年度は「社会教育指導員」です)。

また、今回は「一部公開」であり、報酬の等級と額が「黒塗り」されています。
しかしながら、別の角度から検証すると、黒塗りする意味はありません。
なぜならば、「上尾市会計年度任用職員の報酬等に関する条例施行規則」により、新しく任用された職員の号給は決められているからです。すなわち、会計年度任用職員の制度が始まったのが2020(令和2)年度なのですから、その時に採用された方の報酬は、職名に応じてすでに決まっているというわけです。


2級9号給は同施行規則で 169,800円 と定められています。家庭教育支援員は週3日の勤務となっているので、この基準額の6割が支給されます(他に期末手当あり)。

一方、2級の職務については、同施行規則で次のように定められています。
このとおり、適用される「行政職報酬基準額表」では、2級の場合、「知識若しくは経験又は資格を必要とする業務で定型的な業務を行う職務」となっています。

もうひとつ、次の情報公開請求もおこないました。

情報公開請求の内容 結果(処分)
*家庭教育支援員(会計年度任用職員)」の採用(任用)にあたり、「公募(機会均等=開かれた採用試験・面接)」であるのか、それとも別の方法で採用(任用)したのかが判別できる文書・資料等 文書不存在により非公開処分

〖任用の経緯を説明できない市教委事務局〗
この「非公開処分通知」が手交された際に、口頭で確認しました。

Q.家庭教育支援員は公募したのですか?
A.公募はしていない。
Q.採用された方は、自薦ですか、それとも他薦ですか?
A.自薦ではない。
Q.では、どのような経緯で採用者(退職校長)の名前が出てきたのですか?
A.…………(無言)

以上は、市教委事務局(生涯学習課)職員とのやりとりを再現したものです。
このやりとりから、家庭教育支援員を任用するにあたり「誰を任用するか」については、
市教委事務局(or 別のところ)の誰かが、退職校長の名前
を出し、言わば闇の中で決められたというのは間違いないでしょう。

④本来の家庭教育支援員とは何か(文科省の方針との整合性)
では、そもそも「家庭教育支援員」とはどのような職務なのでしょうか。
参考になるのは、文科省の『「家庭教育支援チーム」の手引書』です。
この『手引書』の冒頭には、次の記述があります。

文部科学省では、地域人材を活用した「家庭教育支援チーム」等による身近な地域における家庭教育支援活動を推進しています。
本手引書は、主に地方公共団体の家庭教育支援担当者が、地域で「家庭教育支援チーム」を立ち上げる際、チームの組織づくりが滑かつ効果的になされるよう必要な視点を整理するとともに、あわせて、地域で家庭教育支援活動を行う方や団体が「家庭教育支援チーム」を立ち上げる際の参考となる要素を盛り込みました。
(家庭教育支援チームとは?)
子育て経験者をはじめとする地域の多様な人材で構成された自主的な集まりであり、身近な地域で子育てや家庭教育に関する相談にのったり、親子で参加する様々な取組や講座などの学習機会、地域の情報などを提供したりします。 また、地域の実情に即して、学校や地域、教育委員会などの行政機関や福祉関係機関と連携しながら、子育てや家庭教育を応援しています
(家庭教育支援チームの構成員)
地域の実情に応じて、子育て関係者をはじめとする地域の多様な人材で構成します。
(例)子育て経験者、教員 OB、PTA 関係者、地域の子育てサポーターリーダー、民生委員・児童委員、保健師、保育士、臨床心理士、コミュニティソーシャルワーカー、地域学校協働活動推進員 など

つまり、文科省は各地域における「家庭教育支援チーム」による活動を推進しており、そのために地方公共団体の家庭教育支援担当者が、地域の「チームづくり」が円滑かつ効果的にすすむように、役割を担うことを期待してこの『手引書』を作成しています。
上尾で言えば、家庭教育支援員は地域の「家庭教育支援チーム」の起ち上げを支援するためのコーディネーターであるべきだと考えられます。その場合、「家庭教育支援」とは、家庭教育講演会の名目で動画配信をするだけにとどまらないのは明らかでしょう。
したがって、上尾市の家庭教育支援員は、文科省が家庭教育支援チームの構成員として例示している方々を含めて公募するべきです。

「家庭教育支援員をどうやって決めているのか?」という質問に担当課の職員が答えられずに押し黙ってしまう現状は変えていかなければならないと考えられます。

この「家庭教育支援チーム」については、埼玉県教育委員会も登録している家庭教育支援チームの状況(県内に12チーム)を県教委HPで発信しています。

⑤結論
当ブログでは、前記事と今記事で、「家庭教育支援員は退職校長用に上尾市教委が置いた職である」という仮説を4つの視点で検証してきました。

①家庭教育支援員設置の経緯(上尾市が設置した家庭教育支援員とは
②市P連との関係(家庭教育支援員とは? 市P連とは?)
③募集の経緯(家庭教育支援員の募集方法は?)
④本来の家庭教育支援員とは何か(文科省の方針との整合性)

このうち、①と②では、市P連事務局職員が以前は社会教育指導員という職名であったこと、現在は「家庭教育支援員」という職名に変更された会計年度任用職員が市P連事務局に週3日配置されていること、さらに、いまだに市P連の規約との整合性が無いことなどを指摘しました。

さらに、上尾市教委への情報公開請求を通じておこなった検証の過程で、「家庭教育支援員はどのように決めているのか(選んだのか)」という質問に対して市教委事務局が返答に窮するという、まさに「上尾市教育委員会の不都合な真実」については、多くの市民に伝えていく必要があると考えています。
また、「家庭教育支援員=市P連事務局員」であるという現状が、果たして本来家庭教育支援員としての役割か否かについても、さらに検証を深めていく必要があると考えます。

一方、『令和4年度 上尾市教育委員会の事務に関する点検評価報告書(令和3年度事業対象)』(P65)には、次の記述があります。
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この中で、「53 家庭教育推進事業/事業の概要」には次のようにあります。

家庭教育推進事業/事業の概要(注:令和3年度対象事業)
(主な目的・内容)
家庭教育の重要性を理解し家庭教育の充実を図るため、市内幼稚園や認定こども園の保護者会が実施する家庭教育に関する事業を支援します。
また、上尾市PTA連合会と連携して行っている家庭教育講演会を開催することで、家庭教育力の向上を図ります。
(主な対象)市内幼稚園及び認定こども園の保護者会

これにより、上尾市の家庭教育推進事業の対象は、市内幼稚園&認定こども園の保護者会であることが分かります。文科省が推進している「家庭教育支援チーム」とは異なるものであると言えます。

上尾市PTA連合会については、家庭教育講演会を連携して開催とありますが、2ヶ月前に配信されたという動画は、いまだに視聴回数 226回 (会員数の1.5%)という状況です。

以上検証してきたとおり、当ブログでは、
家庭教育支援員は退職校長用に上尾市教委が置いた職である」との仮説は正しいと結論づけるに至りました。
とりわけ、家庭教育支援員の採用(任用)の不透明さについては、今後も情報公開請求等を通じて、深掘りしていくつもりです。