給食費の完全無償化に道を開く請願が、上尾市議会で可決されました。

上尾市議会9月議会の最終日、市民にとっても、上尾市にとっても画期的な[小中学校給食費無料化に関する請願]が可決されました。
今記事では、このことを中心にお伝えします(少し長いです)。

記事No.186

🔷請願の中身とは
9月議会で市民団体から提出された請願の中身は次のとおりです。
また、署名数は9月28日の時点で9,206筆になったそうです。

小中学校給食費無料化に関する請願   請願代表者 氏名・印
[要旨]
小中学校の学校給食費が高く、保護者の負担が大きくなっています。すべての子どもが給食費の心配なく平等で良質な給食を食べられるようにするため、市として必要な財源措置を講ずることを請願いたします。
[理由]
上尾市の給食費は小学校で月額4,300円(県下で2番目)、中学校で月額5,200円(県下で1番目)と高く、保護者の負担がとても大きくなっています。
平成17年に食育基本法が制定され、成長期の子どもに対する食育は、子どもたちが一生涯にわたって健やかに生きていくことができるよう、その基礎をつくるために行われる大切なものです。子どもたちが食に関する正しい知識と望ましい食習慣を身に付けることができるよう、学校給食は教育の一環として、食育に重要な役割を果たしています。
すべての子どもが、給食費の心配なく平等で良質な給食を食べられるようにするためにも、保護者の給食費負担を軽減することが今求められています。
以上のことから、上尾市は将来的な給食費無料化に向けて、段階的に取り組みを行っていくことを請願いたします。上尾市長、教育長宛の学校給食費無料化を求める署名にも8,162名(注:請願提出の時点)の方が賛同しています。

🔷市議会での賛成・反対討論では
 この[小中学校給食費無料化に関する請願](9月議会では「請願第12号」)についての各会派による賛成or反対討論はどのようなものだったでしょうか。市議会中継録画から発言をまとめてみました。
(発言順に掲載してあります。)
◎録画では、議員による発言は「です・ます」調ですが、当ブログでは趣旨をお伝えするために、「である」調に変えています。
また、(※数字)については、数字や用語に関してのブログ筆者による補足です。なお、明らかな語彙の使用の誤り等は( )として補っています。

反対討論 田中一崇議員(上尾同志会) 録画 1:19:46~
現在、上尾市をとりまく環境において最優先事項はコロナ対応であると考える。
本請願にかかる財政負担は、年間約8億円(※1)かかる見込みである。この予算を恒久的に支出する財源確保にも課題が残ると考える。
小中学校の給食にかかる事業費としては、総額約18億円、内訳は人件費、施設改修費、無償化対象者(※2)への支援、食材費である。市は、そのうち人件費・施設改修費・無償化対象者への支援総額約10億円をまかなっている。
無償化をすすめる趣旨は理解できるものであり、部分的には賛同もできるところであるが、今おこなうべきかと考えるには、時期尚早と考える。
また、子ども・子育て支援として児童手当、子供医療費の助成や個別に応じた支援をおこなっていることから、[小中学校給食費無料化に関する請願]について、現時点においては反対とする。

(※1)年間の財政負担については、9月議会の答弁で、市の当局(学校教育部)は、次のように説明しています。
*小中すべて無償化  7億7,400万円
*小学校のみ無償化  4億8,300万円
*中学校のみ無償化  2億9,100万円
*第3子以降無償化    2,700万円
*小学校6年生無償化   9,350万円
*中学校3年生無償化 1億 950万円
(※2)「無償化対象者」とは、「就学援助制度」を受けている世帯への補助額を指すと思われます。

賛成討論 海老原直矢議員(政策フォーラム・市民の声あげお)
録画 1:22:30~
本請願は、保護者負担の軽減を主な理由として、学校給食費の無料化に向けた段階的な取組を求めるものである。まずもって、「保護者負担の軽減」という一点をもっても、子育て世代が安心して子育てができる環境をつくるという、あたりまえのまちづくりをすすめていくうえで、補助等の枠組みの再検討を含め、早急に着手しなければならないと考える。
さらに言えば、この無料化に向けた段階的な取組をすすめるということは、多くの議員の方々が推進すべきとしているSDGs[持続可能な開発目標]のターゲット2-1(※1)「脆弱な立場にある人々が一年中安全かつ栄養のある食料を十分に得られるようにする」という点とも一致するものであり、今のコロナ禍でこそ検討をすすめるべきものであると考える。
また、文科省がとりまとめた【学校給食費の無償化等の実施状況】(※2)によれば、「無償化による成果」として、(児童・生徒)では、自治体・地域への感謝の気持ちの涵養、(自治体)においては、定住・転入の促進が挙げられており、こちらの多くの議員の方々が言及している定住促進の方針にも合致するものである。
以上の内容を踏まえても、学校給食費について、請願中にもあるとおり、即時の一括の無料化ではなく、無料化に向けた段階的な取組に着手することが、本市においても不可欠であるという考えから本請願に賛成する。

(※1)SDGsとは、2015年9月の国連サミットで採択されたもので、国連加盟193か国が2016年から2030年の15年間で達成するために掲げた目標です。ターゲット2-1は、「2030 年までに飢餓を撲滅し、すべての人々、特に貧困層及び幼児を含む脆弱な立場にある人々が一年中安全かつ栄養のある食料を十分得られるようにする」とあります。
(※2)文科省「学校給食費の無償化等の実施状況」によります。

賛成討論 平田通子議員(日本共産党)  録画  1:24:57~
学校給食は、生涯を通じて健康で文化的な生活を送り、望ましい食生活の基礎・基本を養い、感謝の心や伝統的な食文化の理解を深めるなど、本当に重要な機会となっている。上尾では、小学校は自校給食、中学校はセンター(セントラル)&サテライト方式で温かくおいしい給食が提供されている。
給食費は自己負担として、小学校は月に4,300円、中学校は5,200円で、この金額は小学校は県内で2番目に高く、中学校では県内で一番高い(※1)。
小中学生の子どもをもつ世帯は、水光熱費など公共料金の支出なども大変多いうえに、消費税が2019年10月から10%になり、負担が増えている。さらにコロナ禍によって非正規雇用やパートなどの仕事も打撃を受け、生活費を切り詰めて捻出しているなど、本当に家庭にとっては大きな負担になっている。
また、子どもの貧困が社会問題となる中で、成長・発達を保障する食事が学校給食のみ、という子どもも少なくない。貧困対策からも無償化が求められている。
憲法第26条は「義務教育は無償とする」(※2)と定めている。給食は、子どもたちの心身の健全な発達に資するものであり、(学校生活)を豊かにするものとして、(学校教育)の一環となっている。
1954年に<学校給食法>ができた時に、食材費は保護者負担で始まったが、負担割合は地域の実情を考慮してという通達が出されており、現在も文科省は(保護者に補助すること)を禁止したものではないとしている。(※3)
全国でも大阪市や明石市など無料化を実施している。県内では滑川町・小川町など4町村が全額無料となっている。今年度は春日部市と熊谷市は第3子の無償化を始めた。昨年度はコロナ禍ということで、桶川市・行田市・蓮田市・富士見市など県内6市町が減免や一部補助を実施した。
給食費の無償化は子育て世代を応援するとともに、ほかのみなさんも言うとおり、子育て世代を呼び込み、市の人口増につながる施策である。
9月28日、「学校給食無料化をめざす上尾みんなの会」から、小中学校給食費の無料化を求める請願署名9,206筆が市長に届けられた。上尾市はこの9,206筆の一筆一筆に込められた市民の願いや思いをしっかりと受け止めるべきである。

(※1)資料として、埼玉県HP[埼玉の学校給食]があります。
同資料には、給食費の月平均額、調理方式(自校 or センター)、給食費徴収方法等のデータが掲載されています(平成30年度分)。

(※2)日本国憲法第26条
すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
② すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。
(※3)(文科省通達:学校給食費の法的根拠
「学校給食法第11条の規定は、経費の負担関係を明らかにしたものであるが、保護者の負担を軽減するために、設置者が学校給食費を予算に計上し、保護者に補助することを禁止した趣旨のものではない。」とあります。

賛成討論 津田賢伯議員(日本維新の会) 録画 1:29:30~
反対されている方々の論拠としては財源論がある。今、財源が苦しい中で(無償化を)やる必要があるのか、このコロナ禍からの脱出を最優先すべきではないのか、そういった主張がある。十分にそれは理解しているつもりである。
しかしながら、この上尾市をとりまく環境、上尾市の人口、数十年後には少子高齢化や人口減少などの理由で市としては消滅してしまう、市から町になってしまうといった未来が数十年後には予測されている。我々政治家としては、この消滅を出来る限り先に延ばすといった延命策が求められると考える。
「給食費に関しては、貧困家庭に対しては無償の援助をしております」という答弁があった。しかしながら、それは起こったことに対する対処療法といったものである。今我々に必要なのは、先手の攻め、そういった子育て支援策の目玉政策への転換が必要とされていると考える。この目玉政策の必要性は、コロナ禍からの脱出を凌ぐ、実は喫緊の課題ではないか、今すぐに着手しなければ手遅れになるのではないかと考える。
他市の例では、兵庫県明石市は中核市であるが、従前より子育て支援策に重点を置いてきた。医療費中学生までの無料、これは上尾市でもやっているが、給食費の無償化を数年前から取り組んでいる。(※1)
2021年7月からは、医療費の無償化を高校まで拡大するといった子育て支援策を重点的におこなっている。 その明石市においては、ここ5年間での人口増加が1万人を超えている。明石市の人口増加を見た隣の政令市である神戸市までもが子育て支援策を重点的にやっていくといった方針転換をするという、切磋琢磨の好循環が生まれているのである。
この例を見てもわかるとおり、子どもへの投資というものは、実は一番「割りの良い」投資である。自治体の大きな負担の先に必ず地域活性化、人口増、税収増という見返りがあると考える。
「受益者負担の原則から、保護者負担と考えている」と執行部から聞いたが、この「受益者負担」という考え方をもう少し拡大して、本案件に対して取り組んでいただければと思う。そして、埼玉県の他の自治体が躊躇している、実現できないでいる今こそが、決断の時であると考える。
給食は、まちの食堂で単にお金を払ってする食事ではない。子どもの未来を創り、上尾市の未来を豊かにしていく大切な事業、大切な投資であると捉えていただきたいと考える。そして我々選挙で選ばれる政治家には、行政職員ではできない決断をするといった使命が課されている。その決断に対して責任を果たすのがまた仕事である。
そして冒頭述べた財源論に対して反論するが、無償化にかかる追加の費用、必要な費用と、令和2年度の決算の繰越額・不用額を比較していただければ、この財源論に対しては反論できると考える。
先輩諸氏の反対に回っておられる方々のご決断を期待しつつ、賛成討論とする。

(※1)これについては、教育新聞の記事「来春から中学給食無償化 政令・中核市で全国初、明石市」があります。

 

以上のとおり、反対・賛成の討論がされ、15名の議員の賛成で、市民からの画期的な請願が採択されました。署名を集めたり、請願の意味を周囲に広めていった市民の方々に心から敬意を表します。

今後は、上尾市教育委員会(実務は学校保健課)が真剣に取り組むことを市民的視座から見ていく必要があります。