市教委による「市民アンケート」。これはいったい何に使われるの?
7月4日頃に上尾市教育委員会からの大きめの封筒が届き、開けると「アンケート」なるものが入っていて、「なに、これ?」と思われた市民の方もいるのではないでしょうか。
かくいう私の自宅にも、この「アンケート」が届きました。
中を見ると「子供たちのための新しい学校づくりに関するアンケート」とあります。
市長と教育委員会連名によるアンケートの説明文を読むと、「市では「上尾市学校施設更新計画基本計画」を作ったが、市議や地域説明会参加者からの意見により、見直しすることになったのでアンケートを実施する」とあります<〆切は7月20日(消印有効)>。
しかしながら、この「アンケート」の中身は「誘導」的な設問が目につきます。
ここには、市教委の「ある意図」が見えてきます。
今記事では、このことに関連してお伝えします(約5000字。少し長いです)。
No.229
🔶そもそも、この「アンケート」って何なの?
この「市民アンケート」については、『広報あげお 6月号』に載っていました。
ですが、こうしたアンケートが1か月後に自分のところに来ることを予想していた市民の方は、ほとんどいないのではないでしょうか。
これを見ると、【「上尾市学校施設更新基本計画」の見直しにあたり「これからの学校施設の在り方」について検討をすすめており、今後の参考にするため】に市民アンケートを実施する、と書かれています。
アンケートの設問については、現在、上尾市教委のHPにも掲載されており、実施方法と対象者については、次のように示されています。
郵送によるアンケート | *満18歳以上の人 3000人(〆切 7/20) *未就学児がいる世帯主 1500人(〆切 7/20) |
web によるアンケート | *市内小学校児童(5年生・6年生) *市内全中学校生徒(全学年) *市内全小中学校の保護者(〆切 7/20) *市内全小中学校の教員 |
(関連) 学校給食に関するアンケート |
*市内小学校児童(3年生~6年生) *市内中学校全生徒 *児童・生徒の保護者 |
上記で提出期限が判別できるのは、青字で示した3つのアンケートのみですが、そのどれもが7月20日が締め切りとなっていることから、他も同様だと思われます。
※これらのアンケートの内容が市教委HPで公開されたのは7月4日です。実はその前に私は次のことについて6月28日に情報公開請求しています(公開・非公開の連絡はまだ来ていません)。
① 学校施設更新計画基本計画調査特別委員会(2022年06月23日)において、井上茂委員の質問に対して池田教育総務課長は「庁内(または教育委員会事務局内)検討委員会で検討している」と回答しています。その検討内容が判別できる文書・資料等。 |
② 上記回答の中で、池田教育総務課長は「教育委員には素案を送り、メール等で意見を聞いている」と回答しています。その「素案」と「教育委員からの意見」が判別できる文書・資料等。 |
③ 児童・生徒、保護者、教員向けの(web)アンケートの内容が判別できる文書・資料等。 |
これらの情報公開請求は、議員対象の調査特別委員会(6月23日)でのやり取りを市議会の中継録画で見てからおこなったものです。
同委員会の席上、議員から「明らかに誘導の質問がある」との指摘や、「この席で指摘された事項について、直せるのか」との質問に対して、池田教育総務課長は「印刷してしまったので無理」と答えるなど、議員から呆れられる様子が録画で視聴可能です。
なお、上記③は、情報公開請求が契機になってHPでの公開となった可能性もあります。
🔶小中学校教員の〆切も7月20日?
webによるアンケート対象者の「市内全小中学校の教員」にとっては、かなりきついのではないでしょうか。学期末に向かい、ますます多忙になる時期ですから。
それとも、勤務時間のなかで、このアンケートに記入する時間が保証されるとでもいうのでしょうか? この件は、今後情報公開請求等を通じて知りたい点です。
🔶「誘導尋問的」とも言えるアンケートの設問
設問の中で「え? これって…?」と疑問が生じる記述がいくつもあります。
まず、アンケートの「子供たちのための新しい学校づくり」という表現です。
自分の率直な意見を書こうと考えたとしても、「子供たちのための」と謳われていることで、市教委の意図する方向に流されてしまう可能性があります。
加えて、極めて意図的だと思われる設問があります。
【市民向けアンケート 設問2-1&2-2】
これは「極めて意図的な設問」と言えるでしょう。まず、「(市内小中学校では)学校規模に偏りが生じています」と「他人事」のように説明しています。であるならば、なぜ今まで市教委としてそれを放置してきたのかについての説明は全くありません。
また、「法律で定める標準程度」と、いかにも法律に依拠した再編のような記述がありますが、「※印」の説明を見ても具体的な法律が示されていません。これは明らかに行政のやり方としてはルール違反と言えるものです。
さらに、「学校規模を適正化し、一定規模の集団のもとで、多様な人々と協働しながら、たくましく生きる子供を育成することについてどう思うか」というのは、極めて意図的・誘導的な設問です。
🔶この設問について、私ならこう書きます
問2-1 | 5(分からない)を選択。 |
問2-2 |
*このアンケートで上尾市教育委員会から示されている情報が不十分である(例:なぜ今まで「大規模校」を放置してきたのか など)。 *設問自体、選択肢の1または2に〇をつけるように意図的に誘導していることが明白である(例:学校規模を適正化し、一定規模の集団のもとで、多様な人々と協働しながら、たくましく生きる子供を育成することについてどう思うか、など)ため、回答できない。 *(※1に関して)「通学区域を見直す」ことと、「学校統廃合」とは全く別の次元のことであるにもかかわらず、「学校再編」で一括りにしているのは理解できないため。 *(※2に関して)「法律で定める標準程度」の「法律」が何を指すのかが明示されていないのは、市役所が実施するアンケートとしては、明らかに「ルール違反」とも言えるため。 *この設問に限らず、きちんと練り上げたとは思えない設問には市民として無責任に回答できない。 |
🔶市教委による「小中一貫教育」の「本当の意図」とは
市民用アンケートの問3では、「小中一貫教育」についての設問となっています。
しかしながら、この設問には、市教委による「本当に意図するところ」が隠れていると指摘せざるを得ません。
市民アンケートにおける<問3>の説明(小中一貫教育) |
「小中一貫教育」とは、これまでの「小中連携」の取組を深化させ、小中学校が目指すべき児童生徒像を共有し、例えば学習指導や生徒指導において、小中学校が同じ方針で取り組むなど、一貫した取組を行っていくことです。 |
「小中一貫教育」に関しては、「ゼロベースで見直す(議会での市長発言)」とされたものの、もともと考えられていた「学校再編計画」では、次のように記述されています。
(『上尾市学校施設更新計画基本計画』P.55)
上記のとおり、「小中一貫一体校」に関しては、明確に「学校統廃合 + 小中一貫一体校」計画が示されています。
「2030年度までに平方小・平方東小を統合、2032年度までに平方北小と太平中を含めた(仮)平方小中一貫一体校を開校(太平中・平方東小敷地)」 |
「2030年度までに(仮)原市小中一貫一体校を開校(原市中・原市小敷地)」 |
これを見れば、上尾市教委(事務局)が「小中一貫一体校」を開校させたいという意図を持っているのは明白です。
ですから、問3での誘導的・意図的な設問に「小中一貫教育は必要である」と回答するのは、市教委事務局の思惑通りになってしまう可能性があります。
また、同じ問3で、「中一ギャップ」という用語が出てきます。
市民アンケートにおける<問3>の用語の説明(「中一ギャップ」とは) |
(中一ギャップとは) 小学校から中学校への進学において、新しい環境での学習や生活へ移行する段階で、不登校等の生徒指導上の諸問題につながっていく事態など |
この説明自体、文科省が示している文言の丸写しであり、一方の視点からのものです。
現在、「中一ギャップ」という考え方は、同じ文部科学省/国立教育政策研究所のリーフレット「中一ギャップの真実」において、疑問が出されています。
「中1ギャップ」という用語の問題点(国立教育政策研究所「中一ギャップの真実」より) |
「中 1 ギャップ」 の語は、いわゆる 「問題行動等調査」 の結果を学年別に見ると、小6から中1でいじめや不登校の数が急増するように見えることから使われ始め、今では小中学校間の接続の問題全般に「便利に」用いられています。しかし、いじめが中1で急増するという当初の認識が正しいのか、不登校の中1での増加にしても 「ギャップ」 と呼ぶほどの変化なのかについては、慎重であるべきです。なぜなら、必ずしも実態を表現しているとは言い切れないからです。 とりわけ、その語感から、中1になる段階で突然何かが起きるかのようなイメージや、学校制度の違いという外的要因が種々の問題の主原因であるかのようなイメージを抱くと、問題の本質や所在を見誤り、間違った対応をしかねません。 |
また、このことは、上述の市議会「調査特別委員会」で議員からも指摘されています。
今後、議員から指摘されていることを承知で(つまり無視して)設問のような記述にしたのであれば、かなり意図的であると言えるでしょう。
🔶「アンケート」を含めた実務は民間企業に「丸投げ」
アンケート作業を含めた「上尾市学校施設更新計画策定支援業務」は、㈱地域総合計画研究所に業務委託されています。落札金額は9,850,958円(落札についての情報は県の入札情報システムで検索できます)。
この件で、私は入札の条件としての「特記仕様書」を情報公開請求で入手しました。
その「業務内容(令和4年度)」として、次の項目が記載されています。
*計画準備(作業計画書)
*計画見直しの検討資料とりまとめ(学校施設のあり方の提案)
*児童生徒数の推移・見込み(2055年度まで。3パターン程度)
*学校の適正規模・適正配置の検討
*庁内会議の開催支援(説明資料・議事録の作成等)
*アンケート調査(今回のアンケート)
*基調講演会の開催支援(市文化Cで2回)
*公聴会(市民説明会)の開催支援(市内6か所各2回、50人程度)
*パブリックコメントの実施支援(公表資料の作成)
*説明動画の作成(スライドショー動画60枚程度)
*成果品(報告書)
これを見ると、「外部にほぼ丸投げ」と言ってもよい内容です。
「新しい学校づくり」担当の職員は今年度6名配置(1名は6/1から配置)されていますが、上記以外のどんな業務を担当するのでしょうか。
🔶ご自分の意見や疑問点は「自由記述」欄に
もし上述のアンケートに疑問を持った場合、たとえば「この設問では何が言いたいのか?」「誘導的な質問ではないか?」と思ったら、その旨を「自由記述」欄に書くことをおすすめします。
教育総務課で確認したところ、自由記述の欄が足りない場合は、紙を足すか、回答用紙の最後の余白部分を使用しても可、ということです。
今記事では、今回の「市民アンケート」には、幾つもの疑問点や問題点があること、それに加えて、この「市民アンケート」を通じて、「市教委がやりたいこと=学校の統廃合」であることもお分かりいただけたかと思います。
市教委から届いた封筒には、アンケート用紙以外にも、「市民参加型のワークショップ等への希望の有無」の用紙も入っていました。
「ワークショップ」にありがちな「付箋の大量使用」あるいは「結局、何も反映されなかったイベント」にならないためにも、問題点をしっかりと把握していきたいものです。
なにがなんでも「学校施設の更新=学校再編=学校統廃合」をやりたい上尾市教委事務局。今後の動向に、当ブログは引き続き注目していきたいと考えています。
いつも貴重な提言と資料を提供してくださり、誠にありがとうございます。
私の所には、メールで」アンケートの要請が届きました。都合三回に分けたもので添付資料としては相当量があります。大方の回答者が印刷してみなければあ中々読み解けそうもありません。私のような機種の古いものでは相当の時間を要します。
締め切りが7/21となってますからもう少し見てみようと思います。ただ読み解くのが容易ではありません。
仰るようにこんなアンケートは見たことがありません。まさに「やった」を実績に自らの都合のよいように利用していくのでは?と危惧しています。
まだ十分読み込んでませんので多くは言えませんが、失礼な話です。
なお、私に来たのは学校からのっ連絡網を通じて配信されてきました。これも不特定多数へ向けたアンケートとは言い難いものです。
いつも「館」さんの配信を見ていることの指摘が痛感させられます。一体教育委員会とはどういう部局ですか?怒りがわいてきます。
コメント、ありがとうございます。
今回の「アンケート」は、一般市民、就学前児童のいる市民、児童・生徒、教員、保護者が対象となっています。
内、「webでのアンケートは、添付資料を印刷するだけで相当な手間になる」とのご指摘は、私は実態がわかりませんでしたので、大変参考になりました。
近々、教育委員会関連で情報公開請求していますので、そうした実態も状況を確認してみます。
ブログ記事にも書きましたが、教育委員会は、ほとんどの仕事は外部に委託(丸投げ)という手法でこのことをすすめています。
上尾市の「教育委員会」という組織は、5人の教育委員が事務局の立案した事業計画を決めたり、報告を受けるという建前ですが、実際のところは教育委員は「お飾り」で、事務局職員が教育行政を主導しています。
今回の市民アンケートを含め、数々の問題がありますが、市民からは見えにくいため、私はブログで発信し、実態を市民の方にお伝えしています。
承認待ちと出ますが、承認が無ければ投稿は出来ませんか?
おっしゃるとおり、当ブログのコメントは「承認制」です。
その理由ですが、ごくまれに、批判の範疇を超え、特定の個人に対する差別的表現を伴ったコメントが届く場合があります。
そうしたコメントについては、私の判断で掲載しないことにしていますので、ご理解ください。
もちろん、そうでないコメントについては原文のまま掲載し、私からの返信をしています。