安倍首相の「退陣表明会見」への違和感

安倍首相の「退陣表明会見」が行われました。TV中継を見ていて感じたのは、強烈な違和感でした。

No.107

■なぜ会見に医師が同席しないのでしょうか
退陣表明をどう演出するかは、相当考えたと思います。以前のような「政権投げ出し」というイメージは避けたかったのでしょう。それがありありと分かる会見でした。
ただ、2007年9月のときは、退陣表明が自身の体調悪化が要因だったと記者会見で慶應大学病院長の同席のもとに明らかにしており、場所は信濃町の慶應義塾大学病院でした。

コロナ対策であれほど「専門家の意見や知見を伺って判断する」と言い、尾身氏が記者会見に同席したこともあるにもかかわらず、今回はなぜ医師は同席してもらわなかったのでしょうか。患者が全国に22万人いるという「潰瘍性大腸炎」についての症状や原因について医師がわかりやすい説明をして多くの人の理解を得ることも必要なことだと思います。結果として「病気なら批判しても仕方がない」と思わせる退陣表明だったように思えます。

■疑惑はそのままですか
この8年の間に起きた数々の強権的政治や疑惑を数え上げたら、きりがありません。モリ、カケ、公文書改ざん、花見を見る会、数に任せた安保法制や共謀罪の強行採決、民意を無視した辺野古への強引な土砂投入、「県民に寄り添う」・「真摯に受け止める」などの空虚な言葉、東京オリンピック誘致のための「アンダーコントロール」などのウソ、首相在任中10人もの閣僚の辞任、河井夫妻へ投じた1億5千万円の金の流れ、etc…
数々の疑惑は、そのまま闇に葬られてしまうのでしょうか。そんなことが許されてよいはずがありません。

■共感できる意見
多くの人が、安倍首相の辞任会見前後に様々な意見を発出しています。ブログ筆者が現在最も共感できるのは、『論座』での白井聡氏の意見です。それをいくつか紹介します。

腐敗は底なしになった。森友学園事件、加計学園事件、桜を見る会の問題などはその典型であるが、安倍政権は己の腐りきった本質をさらけ出した。不正をはたらき、それを隠すために嘘をつき、その嘘を誤魔化すためにさらなる嘘をつくという悪循環。それはついに、一人の真面目な公務員(財務省近畿財務局の赤木俊夫氏)を死に追い込んだ。高い倫理観を持つ者が罰せられ、阿諛追従して嘘に加担する者が立身出世を果たす。もはやこの国は法治国家ではない。
悪事の積み重ね、その隠蔽、嘘に次ぐ嘘といった事柄が、公正と正義を破壊し、官僚組織はもちろんのこと、社会全体を蝕んできたのである。その総仕上げが、黒川弘務を検事総長に就任させようという策動であったが、これが国民の意思の爆発的な噴出(ツイッター・デモ)によって阻止されたことの意義は巨大であると言えよう。公正と正義が完全に葬り去られ凡庸な悪による独裁が完成する事態が、民衆の力によって差し止められたのである。
安倍晋三によって私物化された日本を取り戻すという民衆のプロジェクトは、いま確かにひとつの成果をあげたのである。私たちは、選挙はもちろんのこと、デモ、SNS等、あらゆる手段を通じて声を発し、公正と正義の実現に向けてさらなる努力を重ねる必要がある。安倍政権とは、腐食してしまった戦後日本の産物であり、その腐食を促進加速させる動力ともなった。腐食から破滅に向かうのか、それとも急カーブを描いて上昇気流を摑むことができるのか。私たちはいまその瀬戸際に立っているのである。

■辞任会見の質問から
「病気と治療を抱え、大切な政治判断を誤ることがあってはならない」ならば、なぜ会見後も首相の座に居座るのか、そもそも、今までは政治判断を誤ったことは無いのか、会見ではその説明は無く、メディアからの質問もありませんでした。

それどころか、会見で出た質問は、「後任の決め方は?」(日テレ)「後継候補の評価は?」(朝日新聞)「政権で成し遂げたことのなかでレガシーと思うものは?」(読売新聞)「総理・総裁に必要な資質とは?」(産経新聞)など、聞いていても甘く歯がゆい質問が大半でした。

その中で少しはましかな、と思ったのは次の質問でした。

(東京新聞) 歴代最長政権となり、官僚の忖度や公文書の廃棄・改ざんなど負の側面も問われた。国民に疑問を持たれた問題に十分な説明責任を果たせたか。
(首相) 公文書管理はルールを徹底していくことにしている。国会では相当長時間にわたり、問題について答弁した。十分かどうかは国民が判断すると思う。
(フリーの江川紹子氏) コロナ禍で日本がIT後進国だと露呈した。
(首相)IT分野における問題点、課題が明らかになった。反省点だ。
(西日本新聞) 森友、加計問題など政権の私物化という批判がある。
(首相) 政権の私物化はあってはならないこと。反省すべき点はあるかもしれないし、誤解を受けたなら反省しなければいけないが、私物化したことはない。

西日本新聞の質問に対して「誤解を受けたなら」という言い方は、この政権が得意とするところですが、「自分はそうは思わないが、受け取る側が誤解をしたのなら」という、上から目線であり、「私物化したことはない」に至っては、「では、桜を見る会は私物化ではないのか?」と聞きたくなります。

これからしばらく「安倍首相の後任は誰か?」などという報道が続きそうですが、メディアには「このような政権が長期にわたって続いた真の理由」(たとえば、小選挙区制の欠陥などの選挙制度の問題)を取り上げてもらいたいものです。