上尾市の消防団員にまつわる問題をご存じですか?

当ブログには、「お問い合わせ」経由で多種多様な質問や情報提供(内部通報を含む)などが寄せられます。その全てについて、こちらからメールで返信をしますが、上尾市内の場合には、相談のうえ、必要に応じて情報公開請求し、その結果を共有しています。
上尾市以外では、過日、関西地区某市にお住まいの方から「居住している市の教育委員会の市民への対応が酷い」との相談を受けました。そこで私(当ブログ館主)からは、日本全国共通の「市民の知る権利」である情報公開請求の方法などについてお伝えしました。

最近当ブログの「お問い合わせ」経由で連絡をいただいたのは、「上尾市の消防団についてご存じですか?」というものです。しかしながら、正直な話、消防団のことについて私は全く関心を寄せていませんでした。
そこで、少しでも「消防団」について理解を深めるため、毎日新聞の高橋祐貴記者の著作『幽霊消防団員 ―日本のアンタッチャブル― 』を読み、消防団員にまつわる現状や問題点の存在に気づかされました。

折しも、今日から「春季全国火災予防運動」が始まります(3/7まで)。
今記事は、高橋祐貴著『幽霊消防団員』の紹介と、「では、上尾市ではどうなのか」という、消防団にまつわる問題の、「ほんの入口」についてお伝えします

No.263

🔶消防組織の状況(上尾市の例)
『幽霊消防団員』の話に入る前に、上尾市における消防組織(消防職員・消防団・自警消防団)それぞれについて、市議会(2022年9月議会)での市消防長の答弁(要旨)から、それぞれの違いを確認しておきます。

[消防職員]は、市の職員と同じ常勤の地方公務員。消防や救急、救助などを専業としている。
(補足)*消防本部(東消防署と同一敷地内) *東消防署・原市分署・上平分署
*西消防署・大谷分署・平方分署  ※全職員数276人(短時間任用を含む)
[消防団]は、消防組織法に基づき市町村に設置された非常備の消防機関。
構成員である消防団員は、ほかの本業を持ちながら、権限と責任を有する非常勤の地方公務員として、消防、防災活動を行っている。
上尾市消防団は、定員163名に対し実員が135名(内女性は5名)、充足率は83%。
[自警消防団]は、市内5地区で運営され、昭和38(1963)年に地域で自発的に組織され、それぞれの地区を管轄し、地域の安心、安全を守るため、火災予防の広報や地区行事の警備及び再燃火災の警戒等の活動を行っている防災ボランティアの組織。
(補足)2022(令和4)年4月1日現在の自警消防団の数は29個分団。

🔶高橋祐貴著『幽霊消防団員』の内容とは
この本についての上尾市図書館の[内容紹介]では、次のように記述されています。

活動をしていないのに自治体から一定の公金を受け取る「幽霊消防団員」。全国に広がる、誰も触れることのできない「闇」はなぜ、これまで放置されてきたのか。若手新聞記者がその実態を暴く。

著者である高橋記者は、この本の「まえがき」で次のように述べています。

火災現場では、消防職員や警察官だけではなく、地域の消防団員も火消しや交通整理などに追われている。火災はいつ起こるか分からないため、いつでも出勤できるように団員は準備している。生活上の制約も多いため、精神的にも負担は大きいはずだ。
その消防団で、公金を使った不正が広がっているという。

高橋記者によれば、幽霊消防団員の定義とは、
「1年以上(長くて2年)にわたって消防団員としての活動履歴がまったく無いにもかかわらず、報酬などが支給されている団員」を指します。
また、「公金を使った不正」とは、

「幽霊団員の報酬や手当を消防団幹部が不正に受給している」ということになります。

この本『幽霊消防団員』の中では、ある幹部団員は次のように述べたと言います。
「全国の半分ぐらいの団では幽霊消防団員を始めとする報酬・手当の在り方になにかしら問題があると思います」

この話が本当だとしたら由々しき問題ですが、高橋記者はこう続けています。
「消防職員の30代男性(兵庫県内)は、消防団のことを《パンドラの箱》(※)と表現する。決して触れることのできない闇、すなわちアンタッチャブルだという。もちろん、真面目に活動している消防団員がいることを付け加えるのも忘れなかった。」

(※)《パンドラの箱》とは、元々はギリシャ神話の逸話ですが、さまざまな災いを引き起こす原因となるものの例えとして用いられ、「パンドラの箱を開ける」という言葉が「災いを招くきっかけを作る」を意味する慣用句としてしばしば使われています。
つまり、「触れてはいけない問題に触れる」という意味です。

この本の中では、消防団にまつわる多くの実例が生々しく紹介されていますので、どうしても「では、上尾でも同じような状況なのだろうか?」という疑問が生じてきます。

🔶上尾市消防団員の現状は?
公表されている『消防年鑑』や条例・規則、情報公開請求で入手した資料と消防本部職員の話などから、次のような上尾市の状況が見えてきました。

【分団の数】
*上尾市内には、地域ごとに第1分団(上尾市図書館本館の一角にありますので、「ああ、あれが分団なのか」と思う方も多いのでは)から第8分団まであり、定員は各20名。団本部が3名。合計すると163名が全消防団員の定員となります。
なお、非常勤の地方公務員である消防団員の分団ごとの名簿は、情報公開請求をすれば開示の対象となります(氏名のみ公開。住所・連絡先電話番号等は非公開)。

【上尾市消防団員の資格】
(1)市内に居住し、又は勤務する者
(2)年齢18歳以上の者
(3)志操堅固(※)で、かつ身体強健な者
  (※)志操堅固=かたい意志をもち、なにものにも動かされないこと。

【階級と給与・報酬】
*消防団員の「階級」は、団長・副団長・分団長・副分団長・部長・班長・団員となっており、給与については、団長の[年額141,000円]から 団員の[年額47,500円]まで、それぞれの階級に応じて上尾市の条例で定められています。
災害発生の出動は1日8,000円(4時間未満は4,000円)、警戒・訓練は1日2,000円と定められています。

【なぜ定員に満たないのか】
*上尾市の消防団員は、定員163人に対し、135人という現状です。
情報公開請求の開示の際、「なぜこのような状況になっているのか」との質問に対して、消防本部の職員は、「社会の変化により、雇用形態が変わってきており、比較的時間の都合のつく自由業の方が少なくなってきたこと」を理由として挙げていました。
ただ、私は個人的に「責任の重さに比して給与が低いのではないか」と考えています。

【不正はあり得るのか?】
*ど真ん中=直球の質問ですが、『幽霊消防団員』の本を示しながら、消防本部の職員に、「分団で会計上の不正はありますか?」と投げかけてみました。
返ってきた答えは、
令和2年4月1日からは、給与・手当は個人口座への振込になっているので、制度的にもあり得ない」ということでした(「では、その前はどうだったのか」という疑問は生じますが)。また、活動の際に身に付ける作業服や手袋等は市から支給され、個人持ちではないとのことです。

🔶責任に比べて給与・報酬が低すぎるのでは?
今記事では、読者の方からの質問に答える形で、情報公開請求をおこなった結果も含めて、上尾市の消防団員についての「ごく一部分」についてお伝えしました。
すでに述べたとおり、上尾市消防団員の給与額は、「階級」が最も低い「団員」の場合では、年額47,500です(「年額」であって「月額」ではありません。念のため)。
それでも、国が示している「非常勤消防団員の報酬等の基準」である「年額36,500円を標準とする」よりも多くなっていますが、低額な給与であることは確かです。

🔶入間市では来年度から報酬6割増に
埼玉新聞の記事によれば「入間市は2023年度から消防団員の年額報酬を1人一律47,000円引き上げる方針を決めた。一般団員の場合、現行の年額73,000円が6割増の12万円になる」とのことです。

上尾市では、畠山市長はこの3月議会に向けての施政方針(議案第6号「令和5年度上尾市一般会計予算」について)で、次のように述べています。

次に『住民の命を守るための防災・減災対策の充実・強化』でございます。
伊奈町との消防広域化を実施し、消防力の強化を図り、市民の安心・安全を守ってまいります。
また、「要配慮者避難」を含めた住民参加型の防災訓練を実施し、災害時の「逃
げ遅れゼロ」を目指してまいります。

畠山市長が「消防力の強化を図る」のであれば、消防団員の処遇改善を図るのは市長と
しての当然の責務です。市議会でも委員会や本会議でこの問題を積極的に取り上げてい
くことも必要ではないでしょうか。

消防団員は、実際に起きた災害の場合はもちろん、災害のない場合も活動があります。
上尾市でも、給与や手当などの面からも「団員を増やす」ための処遇が望まれます。