《学校統廃合計画》をめぐる上尾市教育委員会の「不都合な真実」とは

年が明けました。当ブログでは、引き続き「市民的視座から市政・教育行政を考えよう」というコンセプトに基づき、読者の方に情報公開請求に基づく情報の提供や、市政や教育行政に関わる問題提起をしていく所存ですので、今年もよろしくお願いいたします。

『広報あげお 1月号』&上尾市(=市教委)のHPに「上尾市学校施設更新計画基本計画(素案)に関する地域公聴会について」という記事が掲載されました。
ここで示されている「素案」自体は具体的な中身に乏しいものですが、唯一具体性をもって語られているのは「市教委が設定した条件にあてはまる学校については、統廃合を含めて検討の対象にする」というものです。
さらに、
「素案」に対する意見聴取という名目で市民から「公述書」なるものを提出させたうえで、わずか5分間だけ公述」させるというのが今回の「地域公聴会」です。
今記事では、この「公聴会」を含め、上尾市教育委員会が主導している「学校統廃合」をめぐる「不都合な真実」についてお伝えします(リンク先の参照まで含めると、かなり長目の記事になりますが、何度でも当ブログを訪問していただき、ゆっくりと時間をかけてお読みください)。

No.255

🔶「学校規模の適正化方針」の問題点
市教委HP(上尾市HPの新着情報と同様の記事。ともに2022年12月26日更新)に、地域公聴会の開催について言及されており、そこで示されているのが「上尾市学校施設更新計画基本計画(素案)」です。「素案」77頁)には次の記載があります。

この記述には、「(小学校では)全ての学年で1学級が5年以上継続することが見込まれた場合」とありますが、いつから起算するのか示されていません。
また、『上尾の教育』や『通学区域審議会資料』では特別支援学級を含めた推計が採用されていますが、「素案」だけが特別支援学級を含まない推計となっています。

市教委の「学校規模の適正化」方針の根拠としては、主に国(中教審や文科省の手引き)の考え方が挙げられています。しかしながら、中教審答申には、次の記述もあります(色替えは強調のため)。

2021.1.26 中教審(中央教育審議会)答申の該当部分
地理的要因や地域事情により学校存続を選択した地方公共団体においては、少人数を生かしたきめ細かな指導の充実、ICT を活用した遠隔合同授業等の取組により、小規模校のメリットを最大化し、そのデメリットを最小化することで、教育の魅力化・充実を行うことが必要である。

 つまり、市教委はこのような中教審の記述については言及せずに、「自分たちがすすめたい方向=学校の統廃合化」に都合の良い部分だけを引用していることになります。

また、「学校規模の適正化により見込まれる教育的効果」が「素案」81頁に記載されていますが、小規模校でのデメリットの根拠(実証的データ)についての記述はありません。
このことに関して、「骨子案=素案の元になった案」の段階(昨年11月)で私は以下の趣旨で情報公開請求しました。

上尾市の独自の基準(小=特別支援学級を除き全体で6学級以下。中=特別支援学級を除き全体で8学級以下)に今年度該当する埼玉県内の小規模小学校は126,小規模中学校は89(県立学校1校を含む)であり、義務教育学校は学年1クラスの9学級となっています。
上記の埼玉県内の小規模小学校および小規模中学校において、具体的に「小規模小学校」・「小規模中学校」の「デメリット」が生じていること(上記215のいずれか1校でも可。具体的なデメリットであり、一般的なデメリットでないことに留意してください)が判別できる文書・資料等で、上尾市教育委員会が保有しているもの。

この情報公開請求の結果は「文書不存在」でした。つまり、上尾市教育委員会は、他の自治体も含め、県内215校の小規模校におけるデメリットの実証的データを保有していないのです。これは情報公開請求したからこそ明らかになった「不都合な真実」と言えます。

さらに、市議会の議員を対象とした、昨年12/23の「学校施設更新計画基本計画調査特別委員会」の席上、学校教育部長は「少人数学級」「小規模校」の弊害として、「サッカーができない」「リレーの組数が足りない」「校庭の草取りができない」ことなどを例に出していますが、市民や保護者が望む「確かな学力の定着と学力の向上」という面で「小規模校」が果たす役割については言及していません。

🔶「学校規模の適正化方針」以外の「素案」の問題点
「素案」自体は 89ページと分量こそありますが、全体的に見ると、上述の「学校規模の適正化」以外は具体性に欠けるものです。なお、「素案」への意見募集は1/30までです。
以下、具体的に「素案」の問題点を挙げてみましょう。

●「計画の対象期間」が不透明(「素案」6頁)
*「更新計画」を具体的に進めるために定める5年間の「実施計画」がいつ市民に示されるのかが書かれていません。市議会議員を対象とした「調査特別委員会」で教育総務課長は「令和5年度中」と言っているだけで、年度当初なのか年度末になるのか、その見込みさえ明らかにしていません。
*その理由は、2021年6月のトラウマ、が影響しているのではないかと思われます。つまり、改定前の「基本計画」を「教育委員の全員一致・異議なし」で定めたにもかかわらず、問題点を市議会「調査特別委員会」で多くの議員から指摘された結果、「実施計画」を教育委員会定例会で採択する当日にもかかわらず、あわてて取り下げざるを得なかったことが影響していると考えられます。
●資料および現状についての説明不足(例:14頁)
*児童生徒数の推移・推計のグラフが示されていますが、説明不足です。
別の資料(『令和4年度 上尾の教育』)を見ると、今年度の大石中(902人)と大石南中(175人)の生徒数の差がどうして生じたのかについての説明(言い換えれば、生徒数の平準化のために市教委としてどのような対応をしてきたのか)が全くありません。
●老朽化状況を今後どうする予定なのかの記載がない(21頁~30頁)
*校舎の劣化状況に「D評価=早急に対応する必要がある」との記載が34か所あるものの、今後、いつ、その状況を解消していく予定なのかについての記述がありません
*なお、11/12の基調講演会の講師(長澤悟氏)が事前に視察したという市内の学校3校の内、上尾中と富士見小はほとんどが「A評価」、中央小は「D評価」は屋根・屋上のみとなっており、「(施設面で)いい学校だけを講師に見せた」ことは明らかです。
●担当する校務分掌によって出張が決まる?=小規模校批判(36頁)
*「各教員は、担当する校務分掌によって出張(県、市主催の研修会への参加など)が決まる」との記述がありますが、学校における働き方改革の観点(41頁)からも、出張の精選が行われているはずです。「本当に学校を離れて行かなくてはならない業務なのか」の検証も含め、無批判・機械的な記述と言わざるを得ません。
●「ひとり歩き」しているアンケート結果=アンケート問2-1問題(59頁・79頁)
*市民アンケート問2-1は、「学校規模を適正化し、一定規模の集団のもとで、多様な人々と協働しながら、たくましく生きる子供を育成することについてどう思うか」という設問であり、「学校再編に対しての必要性が全市的に認識されていることがうかがえる」と記述されています。
*しかしながら、この設問についての経緯を考えれば、非常に問題があります。というのも、市議会議員対象の6/23の「調査特別委員会」では、この設問について、「まるでひっかけ問題みたいな印象」「行政の人が書くとこうなってしまうのか」「アンケートの作成過程が、きちっと議論しているとは思えない」「信用できないアンケート結果になるのではないか」など、多数の議員から疑義が寄せられました。
*極めつけは、このような設問であることから、「市民アンケートの問2-1は今から修正することは可能か」との質問に、教育総務課長が「印刷してしまったので、修正できない」と答えていることです。つまり、「見切り発車」したアンケートであるということを公言していることになります。
*これでは、アンケート結果の記述は「ひとり歩き」していると言わざるを得ません
●資料不足(61頁)
*市民ワークショップの意見=別冊「報告書」を参照、との記載にもかかわらず、別冊資料の掲載がありません。
*全体的に、「素案を示すまでの経緯」などについて、「調査特別委員会」で配布された資料等も含め、「公聴会」の前に示すべきです。
●基調講演会についての「総括」が無い(62頁)
*「鳴り物入り」で取り組んだはずの1000人(500×2回)規模のイベントにもかかわらず、午前・午後の参加者は57名(市教委発表。実数はもっと少ない)であったことについて、「なぜ市民が集まらなかったのか」についての反省(総括)が全くされていません。『あげTube』での視聴回数についても、公開後1ヶ月以上経過しているにもかかわらず、1本目=333回、2本目=91回、3本目=80回(1/4現在)という悲惨な状況です。

ざっと目を通しただけでも問題点がいくつもあることがわかります。これを全部指摘していたら、「公聴会」での5分の公述では到底時間が足りないことは明らかです。

🔶「公述人」が提出を求められている「公述申出書」について
『広報あげお』や市教委HP掲載の「上尾市学校施設更新計画基本計画(素案)に関する地域公聴会について」では、「公聴会」に参加する「公述人」は「公述申出書」の提出が求められています。
これについて、12/23の市議会「調査特別委員会」の席上、議員からの「公述申出書」に関する質問に対して、教育総務課長は次のように回答しています。

*公述申出書には、あくまでも意見の要旨を書いていただく。
何百字とか、そういったことではなく、少ない行数でも、箇条書きでもけっこうです。

しかしながら、「調査特別委員会」後に更新されたHPには、「公述申出書」の注意書きとして、次のように書かれています。
・意見の要旨は、400 字以内にまとめ、楷書で明瞭に記入して下さい。
これでは、明らかに「調査特別委員会」での教育総務課長の回答とは異なります。「その場しのぎ」と言われても仕方ないでしょう。こうした市教委にとっての「ご都合主義&不都合な真実」は看過できません。

🔶今年も市政&教育行政の「不都合な真実」をお伝えします
今記事のタイトルは「《学校統廃合計画》をめぐる上尾市教育委員会の「不都合な真実」とは」です。「不都合な真実」と聞いて多くの方が思い出すのは、米大統領候補だったアル・ゴア原作の映画『不都合な真実』(2006年,原題は An Inconvenient Truth )かもしれません。作品のテーマである「地球温暖化の危機」は、17年前の映画の公開時よりもむしろ現在、世界的にも喫緊の問題であることは論を待たないでしょう。

市民的視座に立つと、残念ながら、不都合な真実は私たちにとって身近なはずの市政や教育行政にも存在します。今記事で指摘したこと以外でも、たとえば、教育委員会の議案がこの20年にわたり「異議なし・全員一致」で決められていることや、「男女共同参画」を掲げる上尾市の教育委員の男女比が、実は4対1で前より後退していることなどは、上尾市教育委員会にとっての「不都合な真実」であると言えます。

当ブログは、情報公開請求など市民の「知る権利」で得た情報などに基づき、こうした行政&教育行政の「不都合な真実」をこれからも市民の皆さまにお伝えしていきます。