多額の費用をかけてALTに頼らざるを得ない上尾市の英語教育の現状

現在上尾市では、ALT(外国語指導助手)を雇うために多額の費用をかけています。
そこまでして何を目指しているのか、実際のところ、児童・生徒の「英語の力」はどうなのかは気になるところです。
今記事では、現在の上尾市の英語教育の現状
について、情報公開請求等で得た情報などに基づいてお伝えします。ただし、外国語(主に英語)教育については、今記事以外のことについても多くの問題を抱えていることから、後日続報を投稿する予定です。

No.275

🔶ALTとは
ALTとは、Assistant  Language  Teacher の略で、「外国語指導助手」と訳されます。
外国語と言っても、実際には英語の指導助手であり、上尾市では市内の小・中学校全校に配置されています。本来はあくまでも「Assistant」であるはずですが、実際の授業でのALTの役割はどうなっているのでしょうか

🔶ALTの予算額は「部活指導員」の何と40倍
では、ALTに関する今年度の上尾市の予算を見てみましょう。

このとおり、上尾市の小・中学校の「ALT派遣委託料」は年額1億6千万円を超える予算となっています。一方で、「部活動地域移行推進事業」は、わずか410万8千円であり、予算額には著しい偏りが見られます。

🔶ALTの「労働者派遣契約書(長期継続契約)
私(当ブログ館主)が情報公開請求で入手した、ALTの派遣業者と市長との間で交わした「労働者派遣契約書」は次のとおりです。
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ここから分かる契約内容としては、

*3年間の長期契約であり、総額は4億8千万円を超えていること。
(=最初に予算が通れば、3年間はcheckがされない可能性が高い
*派遣期間= 2023(令和5)年4月1日~2026(令和8)年3月31日
派遣人員36人(小学校25人・中学校11人)
※小学校の大規模校3校には2人配置。他にコーディネーター(日本人)2名。

また、契約書に付随してA4版6頁の「特記仕様書」があります。
特記仕様書に記載されている内容は19項目ありますが、主なものを挙げてみます。

[ALTの勤務時間]
*原則、8:15~16:15(実働7時間15分。休憩時間45分)
[ALTの要件]
*英語を母国語とするか、または同等(英語により12年間以上の教育を受けている)の英語力を有し、中学校外国語科検定教科書の附属CDの準ずる発音、リズム、イントネーションで指導ができること。
*日本語で日常会話ができ、日本語で授業の打ち合わせができること。 など
[ALTの業務内容=小学校]
*英語活動の授業及び国際理解教育に関する授業の指導補助
*教職員との授業に係る打ち合わせ、教材等の提供や作成の補助
*日常の児童との交流
*学校行事への参加
*教諭に対する研修会での指導
*清掃指導、給食指導への参加
*相談室、通級指導教室における指導補助  など

この「特記仕様書」により、「授業の指導補助」の他に、ALTに「清掃指導」や「給食指導」への参加を求めていることも分かります。そうであれば、特に根拠なく上尾市内の小中学校で「流行」している、薄気味悪い黙働」(みんなでひたすら黙って掃除をすること。学校によっては「膝つき清掃」などエスカレートしている場合もあります)について、ALTには何と説明しているのでしょう…?
これは日本の文化だから黙って言うとおりにしてね」ということなのでしょうか。

🔶監査委員とのやり取りから見える英語教育の実態
昨年11月に実施された教育委員会事務局への監査委員による内部監査の状況。
情報公開請求により明らかになった監査委員と事務局(指導課長)とのやり取りを見ると、今の上尾市の英語教育の一端が見えてきます。
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監査委員の質問「特例校の指定を受けているが、効果は表れているのか」について、市教委事務局(指導課職員)が説明している「中学校卒業程度の力」とは、文科省の資料から「英検3級」を指します。
ここで文科省が「半数以上を目指す」と線を引いていること自体、生徒の半分は見限っているということになりますが、上尾市もそれに倣っていることになります。
しかも、「県の平均が47%」(=だから平均を少しばかり上回っている上尾市はすごいでしょ、と聞こえます)と説明していますが、その資料を示す際に、お隣のさいたま市では達成率が86.3%であることは伏せていたようです(数字は令和3年度調査)。

🔶小学校の教員は英語を教えなければならないのですか
今年度の「上尾市教育行政重点施策」では、「 英語教育推進事業 」として、次のような記載がされています。

 上尾市では、令和 2(2020)年度から、文部科学大臣から教育課程特例校の指定を受け、全小学校1・2 年生で「英語活動」を実施しています。「英語活動」の実施により、小・中学校 9 年間を見通した英語教育を推進します。

随分と気合が入っている書きぶりですが、もともと、小学校では、2011年から5・6年生を対象に英語学習が始まり、2020年より3・4年生から正式に必修化されて「外国語活動」となり、5・6年生からは「外国語」という“教科”になったという経緯があります。
上尾市は「特例」として小学校1・2年から英語教育に力を入れているように見えますが、上述のとおり、中学3年生になると、生徒の約半分は「目標に達していない」と見なされるのです。

現在30代後半より年代が上の小学校の先生方は、英語を教えることを想定していなかったのではないかと推測します。文科省も県や市の教育委員会も、その事実については何も考慮しなかったのか?という疑問が生じます。県も市も文科省がすすめる施策を「無批判」に受け入れた結果と考えざるを得ません。

文科省が公表している中には、次のような資料もあります。

[小学校教師のうち、中・高校英語免許状を所持している割合]
2021(令和3)年度[全国計] 7.5%
※文科省 令和3年度「英語教育実施状況調査」概要より
参考:
2023(令和5)年度[上尾市] 6.6%
※学務課による情報提供 38人/574人中(市内小学校教員)

こういう実態を見ると、小学校(に限りませんが)の先生方は大変だな、と思わずにはいられません。

🔶児童生徒1人あたりのALT予算はさいたま市の1.68倍ですが…
以下は今年度の上尾市とさいたま市とのALTの予算の比較です。

[上尾市]
児童生徒数    16,591人   ALT予算 161,568,000円   ∴児童生徒一人当たり予算額  9,738円
[さいたま市]
児童生徒数  101,019人   ALT予算 586,216,000円   ∴児童生徒一人当たり予算額  5,803円

このとおり、上尾市のALTの年間予算は、さいたま市の1.68倍です。
私は英検3級取得のみが生徒の英語の力量を示すとは考えていませんが、上尾市教委事務局が英検3級取得を指標にしていることから(しかも、点数が県より上であると言っています)、さいたま市との比較も率直に監査委員に伝えるべきであったと思います。都合の悪い事実について触れないのは、いかにも上尾市教委事務局らしい対応だとも言えます。

🔶まだまだある「英語教育問題」
今記事では、ALTの予算額や委託契約内容について言及してきましたが、「英語教育」をめぐる問題は、まだまだたくさんあります。以下、羅列してみましょう。

*英語の「学校選択問題」
2017年春から、高校入試の際に「学校選択問題」が出題されるようになりました。
一部の学校(20校)で、英語と数学のみ「応用的な内容を含む」という理由で実施されていますが、その功罪について。

*フィンランドではなぜ英語が堪能な人々が多いのか
米崎里の著書『フィンランド人はなぜ「学校教育」だけで英語が話せるのか』を読むと、現在の日本の英語教育の問題点が浮かび上がってきます。

*「二極化」について
現在の英語教育は、グローバル化への対応といいながら、結局は英語が得意(成績が良い)子と、そうでない子との二極化を生み出す役割を果たしているのではないか、という問題。

以上については、次の記事ではありませんが、後日別の記事にしたいと考えています。