水泳授業の民間委託化に「前のめり」になる上尾市教育委員会

11月24日の上尾市教育委員会11月定例会を傍聴しました。
相変わらず「ツッコミどころ満載・しかも議論ゼロ」の定例会でした。
その中で「上尾市学校施設更新計画=学校統廃合計画」の中でもとりわけ上尾市教委が「前のめり」になっている「水泳授業の民間委託化」についての策定スケジュールが教育委員に示されました。
今記事では、このことについてお伝えします。

No.194

🔷プール整備方針の策定スケジュールとは
これは、11月8日の「上尾市学校施設更新計画基本計画調査特別委員会」(以下、「調査特別委員会」)を受け、教育委員会定例会で説明されたものです(最下部にカーソルを当てるとズーム機能あり。PC画面での閲覧を推奨します)。

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資料を見ると、「先進都市の民間委託による水泳授業の現状及び視察」の中で、「視察実施」が今年の11月・12月となっています。

※そもそも、「先進都市」という表現は適切なのでしょうか。「先進」とは、「発展の段階や進歩の度合が他より進むこと」という意味であることは自明です。反意語は「後進」ですから、上尾市は、プール指導の民間委託していないので「後進都市」ということになってしまいます。
このような、民間委託=先進 民間委託していない=後進 というような先入観を助長するような表現には疑問が生じます。

視察の対象市は桶川市・北本市・志木市となっていますが、ここでは、教育総務課長がいつものごとく「肩をゆすらせながら」名前を挙げた、北本市について見ていきます。

🔷北本市の水泳授業の民間委託化の実態
「水泳授業の民間委託化」をネット検索すると、現在の状況がある程度把握できます。どうやら、北本市が最初に水泳授業の民間委託化を開始したようです。

【資料❶】朝日新聞デジタル版(有料記事のため一部見られません)
(記事の概要)2019年5月27日、北本中学校の2年生186人(うち見学24人)が北本市のスウィン北本スイミングスクールのマイクロバスで学校から移動。スクールのインストラクターがプールに入って技術指導し、教諭らはプールサイドでの安全確認や生徒の評価と役割を分担した。
 スクールへの授業委託は、専門的な指導による泳力向上や、少子化の中での学校プールの維持管理費削減、天候に左右されない計画的な授業実施などを狙って今年度から始めた。

次の資料は「令和元年度 彩の国いち押しの取組事例発表会」というものです。自治体名は「北本市」、事業名は「学校水泳民間委託事業」となっており、おそらく、北本市が県で発表をした資料と思われます。
この中で、「成果」と「課題」について見てみましょう。

※ひとつ押さえておいていただきたいのは、こうした研究や実践の「発表」の際には、「成果(と思われるものを含む)」がことさら強調され、「課題」や「欠点(欠陥)」は過少に扱われる傾向があるということです。
上尾市で言えば、教育長&教育長職務代理者も「委嘱研究発表」に異常とも言えるほど執着していますが、研究発表に関わる職員は多大な負担が生じます。
以前、上平小(石塚昌夫校長:当時)の委嘱研究発表の際には、発表の前月に、なんと141時間余りの時間外勤務を余儀なくされた教職員がおり、市議会でもそのことについての質問がされました(当ブログ記事No.47参照)。
こうした実態は、当ブログを含め、誰かが指摘していかなければならないと私は考えています。

北本市で「課題」として挙げられている「市内他校への事業拡大」ですが、今年度は北本市内4校の中学校に事業拡大されているようです。

【資料❷】北本市立西中『学校だより2021年6月号』より
〇今年度の水泳授業について
今年度の保健体育の授業におけるプール指導については、北本市の水泳授業委託事業に伴い、民間施設(西中はセントラルスイミングスクール  ※注)での実施となります。実施日程等は以下のとおり予定しております。新型コロナウイルス感染症等の影響により日程等が変更になる場合があります。
1 学年  6 月 4・18 日 7 月9・16 日
1・2時間目  計4 回
2 学年  9 月3・10・17 日5・6 時間目
24日3・4時間目  計4 回
3 学年  9 月3・10・17 日3・4 時間目
24日5・6時間目  計4 回

(※注)セントラルウェルネス桶川北本のこと。北本西中からは、直線距離で約3kmあります。

🔷水泳授業の民間委託化に批判的な見解は?
こうした状況については、当然批判的な意見もあります。
学校プールの廃止や民間委託を進めていいのか? 体育指導の専門家が訴える「義務教育で学ぶべき水泳の力」】(東京新聞:子育て世代がつながる東京すくすく)
体育指導が専門の筑波大学附属小学校体育研究部の平川譲教諭は、主に次の点から、とりわけ小学校におけるプールの廃止や水泳授業の民間委託化に反対しています(以下、平川教諭の意見です)。

【プールの設置・管理は本来、自治体の義務】
コストの面で言うと、設置費だけでなく、水道代や消毒のための薬品代など管理費用もかかる。ただし、それを整える義務は本来、学校設置者である自治体にあり、きちんと義務教育の教育課程を完遂するのであれば、プールの設置は必要。
【年間10時間の水泳授業について】
年間10時間は、体育の全体の時数からみるとかなり大きい。小学校は105時間がベースで、学年により違いはあるが、その10%が水泳の授業。むしろ問題は、体育の授業時間の10%を使っても、水泳指導の成果が上げられていない学校やクラスが少なくないこと。
【国語や算数を塾に全部任せるか】
世の中全体にある「体育はそんなに大事じゃないよね」という認識もプール授業軽視の背景にあると思われる。国語や算数なら、塾の方が指導がいいから全部任せよう、とならないはず。
【移動時間が授業に食い込む】
体育専門の立場として心配するのは、移動時間が本来の授業時間に食い込むこと。民間のプールで水泳をして学校に戻ると、半日かかるという話も聞く。
また、移動時間がもったいないとなると、どうしても1回に2時間とか3時間とかたくさんやろうとする。でも、運動は40分とか45分の授業を何回もやる方が身に付き、技能が高まっていく。小分けにした方がいい。

🔷「民間委託ありき」の視察では?
今記事の冒頭で示した上尾市教委のスケジュールでは、どうしても今年度中に「先進?都市」を視察して、課題には目をつぶり、良さそうに見える点だけを抜き出して、「水泳授業の民間委託化」を急いで推し進めようとしているように見えます。
移動に要する時間や、教員とインストラクターとの連携や評価の問題など、議論すべき課題を無視して、「水泳授業の民間委託化」を強引にすすめることには、強く警戒していく必要があると思います。
12月までに「視察」とされていることから、年内に情報公開請求をおこない、この問題についての進捗状況を注意して見ていくつもりです。