誘導的設問が多い市民アンケートは作成者側の《集団浅慮》が主要因

上尾市教育委員会が今月実施した子供たちのための新しい学校づくりに関する市民アンケート」。
対象者は18歳以上の市民3000人でしたが、私のところにも回答用紙が届きました。
このアンケートの問題点は、すでに当ブログ記事<市教委による「市民アンケート」。これはいったい何に使われるの?>で指摘しました。

アンケートの内容を見た市民はもとより、市議会の調査特別委員会でも、議員から「誘導的な質問ではないか」と指摘されています。そうしたことから、「市教委は学校統廃合の方向にもっていきたいのではないか」あるいは「どうしてこんな設問にしたのだろうか?」という疑問があらためて生じています。

今記事では、このアンケートへの私の回答と、設問を作成する際の要因になったと思われる《集団浅慮》についてお伝えします。

No.232

🔶「市民アンケート」への私の回答から
市民アンケートの設問自体は、児童・生徒、保護者、教員向けアンケートも含め、すでに上尾市教育委員会のHPで公表されています。
ここでは、私が提出した「市民アンケート」への主な回答を再掲してみます。

まず、[問1-4]についてです。

[問1-4]への私の回答です(強調のため色替えあり。以下同じ)。

〖9.この設問には回答できない〗
なぜならば、「学校が他の公共施設と一緒になる場合」という前提がおかしい
コミュニティスクールの根拠法令は地教行法(注:地方教育行政の組織及び運営に関する法律)であり、連携としての社会教育法においても、施設の複合化については触れられていない。
この設問は、そうした法的根拠についての説明の無い市教委にとって極めて意図的な、都合の良い設問」であると言わざるを得ない。

この設問だけでなく、今回の「市民アンケート」は、前提となる法的根拠をあいまいにしていることが特徴です。したがって、市民にわかりやすい設問とは言えません。

次は[学校の再編]関連の設問です。


[問2-1][問2-2]への私の回答は、以下のとおりです。

〖5.分からない〗
*このアンケートで上尾市教育委員会から示されている情報が不十分である(例:なぜ今まで「大規模校」を放置してきたのか など)。
*設問自体、選択肢の1または2に〇をつけるように意図的に誘導していることが明白であるため、回答できない(例:学校規模を適正化し、一定規模の集団のもとで、多様な人々と協働しながら、たくましく生きる子供を育成することについてどう思うか、など)
*(※1に関して) 「通学区域を見直す」ことと、「学校統廃合」とは全く別の次元のことであるにもかかわらず、「学校再編」で一括りにしているのは理解できないため。
*(※2に関して) 「法律で定める標準程度」の「法律」が何を指すのかが明示されていないのは、市行政が実施するアンケートとしては、明らかに「ルール違反」「説明不足」ともいえるため。
*この設問に限らず、きちんと練り上げたとは思えない設問には、市民として無責任に回答できない。

[問2-1]は、「誘導的質問」の典型です。「多様な人々と協働しながら」の主語がわかりませんし、「学校の再編」の定義を明確に示さずに「たくましく生きる子供を育成することについて、あなたはどう思いますか」などという質問は、「学校の再編は必要である」という回答に誘導していることは明白です。

次も「前提がおかしい」設問となっています。

[問2-3]については、次のように回答しました。

[問2-3]の設問自体がおかしい。 なぜならば、[問2-1]の説明(※1)と整合性が無い。
《学校再編=「通学区域を見直しすること」や「学校統廃合により通学区域を見直すこと」》と説明されているが、「通学区域を見直しすること」は、現行の〈上尾市立小・中学校通学区域審議会〉の役割であることは明白。一方の「学校統廃合」については、市長が「ゼロベースで見直す」と明言している。そうした現状や経緯の説明が無いままの設問には回答できない。
なお、[問2-4]~[問2-6]も《学校再編》を一括りにしているので同様。

[問3]は、「小中一貫教育」についての設問です。

問3-1][問3-2]への回答は以下のとおりです。

ひと口に「小中一貫教育」と言っても「義務教育学校 例:〇〇小中学校や〇〇学園など。校長は一人」なのか、それとも「小中一貫(施設)一体校。校長はそれぞれの学校にいる」なのか、あるいは施設は別のままの「小中一貫教育」であるのか、外形的にも内容もそれぞれ全く異なる。
[問3]は、以上のどの方式を対象にしているのか、全く説明が無い
この設問自体、上記のことを含めて、市民に対する説明不足であり、《「小中一貫教育」は必要》と答えさせたいという意図が明らかである。

(以下、「中一ギャップ」の用語の使い方についての指摘)※当ブログ記事No.229を参照。

私の回答にあるように、何をもって「小中一貫教育」としているのか、その説明がありません。設問を作成する際に、どのような検討をしたのか、大変疑問です。

次は、「子供たちの新しい学校づくり」についての自由記述です。


[問4-1]この設問には、以下のとおり回答しました。

「子供たちのための新しい学校」とは、学校統廃合によって再編されたものではなく、以下のことについて配慮された学校であること。(順不同)
*子どもたちや保護者が「私たちの学校が無くなるかもしれない」などと不安に思わずにすむ学校。
*すべてのクラスが25名以下である学校。
*教員不足の問題が顕在化していない学校。
*普通教室や体育館だけでなく、すべての特別教室にもエアコンが設置されている学校。
*設備の整ったプールがある学校。
*教員にとって、「時間外在校時間」と称されている時間外勤務が無い学校。
*授業の準備や教材研究が勤務時間内に保証されている学校。
*いわゆる「指導課訪問」や「委嘱研究」は現状のような強制ではなく、希望制である学校。
*「部活」が地域移行されている学校。
*「校長」と「教育委員会事務局」との相互異動が無い学校と教委であること。
*給食費が完全無償である学校。
*できるだけ教育委員会事務局の関与が少ない学校。
*教育委員相互の議論が活発である教育委員会において真に児童・生徒の学びが検討され、保証されていること。
*外部の専門家がコロナ対策(消毒等)をおこなう学校。
*学校で必要な備品や消耗品等あるいは役務の提供を保護者に依拠しないですむ学校。
*PTAへの任意加入・脱退が保証され、会費や手伝いなど保護者の負担が強制されることが無い学校。
*「置き勉」が認められている学校。
*「ICT機器は学習のツールの一つに過ぎない」との自覚がある児童・生徒と教職員がいる学校。
*児童・生徒の更衣室が整備されている学校。
*制服を含めた「学校のきまり」について子どもたちの意見を取り入れている学校。
*子どもたちの意見表明権が保証されている学校。

🔶設問作成にあたり、誰がどう関与したのか
これについては、情報公開請求したところ、次のようなことがわかりました。

(学校施設更新計画基本計画についての「庁内検討委員会」の構成員)
行政経営課・財務課・施設課・保育課・青少年課・市民協働推進課の各課長・教育総務課など27名で検討している。
また、設問作成にあたり、「株式会社 地域総合計画研究所」からアドバイスを受けている。

なんと、課長クラスが21名プラス教育総務課の担当(新しい学校づくり課)が6名、合計で27名が集まって、アンケートの設問を検討したということのようです。

🔶誘導的アンケートの主要因は作成者側の《集団浅慮》
アンケートの設問は極めて意図的・誘導的なものとなっています。このことは議会の調査特別委員会でも指摘されています。
では、どうしてこのような「誘導的設問」になってしまったのでしょうか
27名も「検討委員会」のメンバーがいれば、1人や2人、「この設問は(誘導的なので)作り直したほうがよいのでは?」などと指摘する人がいても不思議ではないと思うのですが、実際にはひとりもいなかったようです。

これは、社会心理学で言うgroup think=集団浅慮》の典型であると思われます。
《集団浅慮》の主な特徴として、次の点が挙げられます。

★グループ(この場合は庁内検討会議)がみな同じでなければならないという「全員一致」への圧力、この圧力が強いと、各成員(つまり、検討委員会のメンバー27人)は、自分の意見のうち、グループの意見と異なる部分を自己検閲して、表明しなくなる。
その結果、グループの意見は全員一致で支持されているという全員一致の幻想が生じると同時に、外部からの批判意見が入らないような防衛的な構えができる。
(出典:日本社会心理学会編『社会心理学事典』丸善、2009)

この《集団浅慮》の特徴を見ると、「なぜアンケートの設問が誘導的になったのか」を解明する手がかりになっていると考えられます。
アンケートの設問が誘導的であることは一目瞭然です。ですが、誰ひとりとして、全体の意向とは異なる意見を表明することは無く、市民のもとに届けられたのです。

議会の調査特別委員会では、「今から直せるのか?」という議員からの質問に、教育総務課長は「もう印刷してしまったので無理」と答えています。

🔶教育委員も指摘しなかった「誘導設問」
アンケートの素案については、一応教育委員にも事前に確認したようです。
情報公開請求により入手した「アンケート調査票(素案)」に対する「18歳以上の市民アンケート」についての教育委員の意見は、次のようなものでした。

(該当箇所を指摘)1学級→1学年ではないでしょうか?
(該当文言を指摘)1学級2~3クラス ⇒ 1学年2~3クラスではないか。

このように、文言の修正を求める意見はあったようですが、教育委員からは「この設問は誘導的ではないか?」との指摘はありませんでした

毎回教育委員会の定例会を傍聴していると、上記での社会心理学における《集団浅慮》という説明が当てはまることがわかります。

🔶これからが重要
今記事では、「市民アンケート」の設問がいかに意図的・誘導的であるかについて、私の回答を示しながらお伝えしました。
市教委による「学校再編=学校統廃合」の計画は、これから「基調講演会(11/12予定
)」「ワークショップ」などを経て本格的に動き出します。

今回のアンケート結果を、市教委事務局に都合よく利用させないためにも、当ブログでも情報公開請求などを通じて、引き続き強い関心を寄せていきたいと考えています。

“誘導的設問が多い市民アンケートは作成者側の《集団浅慮》が主要因” への2件の返信

  1. 社会心理学、ですか。
    その面からのアプローチ・分析は興味ありますね。

    1. 3月に卒業した大学で、興味深かった学びの一つが「社会心理学」です。
      人間の様々な態度や現象について、なぜそうなるのかについて、実験を通じたり理論を研究する学問です。
      集団と組織では、集団浅慮だけでなく、たとえば「集団擬集性」や「集団心と集団錯誤」など、実験や理論に基づき研究がされています。
      上尾市教育委員会の「集団浅慮」については、論文が1~2本書けそうです。

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