上尾市図書館による「学校統廃合」関連のレファレンスサービス(2)

前記事では、現在「全市的な問題」となっている「学校統廃合・学校再編計画」に関する資料や検索先などについて、私が上尾市図書館にレファレンスサービスをお願いしたところ、ていねいな回答があったことについて述べました。
今記事では、上尾市図書館によるレファレンスサービスの後編として、<インターネット情報><埼玉県内の学校統廃合に関する資料>についてお伝えします。
(いずれも、私がすでに検索をした資料以外の情報が示されています)
なお、今記事では、情報検索のためにリンク先を幾つか示していますので、利用していただければ幸いです。

No.222

🔶<インターネット情報>について

(1)《国立教育政策研究所ウェブサイト》を閲覧する
「検索・閲覧」ページに複数のデータベースあり。
たとえば、《研究成果アーカイブ》で「学校統廃合 出版年 2011年~」を検索すると、6件の論文がPDFで閲覧できる。

 *このレファレンスサービス(検索方法の提示)にしたがって検索すると、たとえば次のような論文を読むことができます(全文閲覧可)。

渡邊恵子(国立教育政策研究所 教育政策・評価研究部長)「地方教育行政の多様性・専門性に関する研究/地方創生と教育行政」(2019年3月)

この論文の中で渡邊氏は「学校統廃合と地域の人口動態/市町村における学校数の変動と人口動態」について、2012年~2016年のデータを示したうえで、次のように指摘しています。

市町村の約75%は、毎年、転入超過がマイナスの状況、つまり転出超過の傾向にある。この転出超過を通じて、各自治体は人口減少に直面している。
その一方で、下表(注:サンプル市町村数=1718自治体)は、14 歳以下の転入超過の状況をまとめたものである。
これをみると、全年齢区分の場合とは異なり、市町村の半数以上が転入超過となっている。マクロの動向としての少子化傾向にも関わらず、中学生以下の年代では人口増の状況にある市町村の方が多い。このことは、就学期の子供をもつ世帯が、都市部や過疎地といった移動先の地域条件に関わらず、比較的柔軟に居住地を移動していることを示している。

上尾市教育委員会の「学校更新計画基本計画」では、人口動態のデータについての信憑性の問題が指摘されています。ひとつのデータに頼るのではなく、できるだけ多くの識者・研究者の論文などを参照することが必要なのではないでしょうか。

(2)《KAKEN:科学研究費助成事業データベース》を閲覧する
科学研究費助成事業データベースは、文部科学省および日本学術振興会が交付する科学研究費助成事業により行われた研究の当初採択時のデータ(採択課題)、研究成果の概要(研究実施状況報告書、研究実績報告書、研究成果報告書概要)、研究成果報告書及び自己評価報告書を収録したデータベースです。
科学研究費助成事業は全ての学問領域にわたって幅広く交付されていますので、本データベースにより、我が国における全分野の最新の研究情報について検索することができます。

このレファレンスについて、実際にHPを閲覧してみました。
KAKEN「研究課題をさがす」の検索窓に、「学校統廃合」「全文検索」と入力すると、196件ヒットします。さらに、「研究開始年:新しい順」あるいは「適合度順」で再検索できます。たとえば、「適合度順」で上位に挙がった論文は以下のとおりです(大学名はいずれも論文執筆当時)。

1.山本由美(和光大学)「学校統廃合の実態に関する日米比較研究」
2.山本由美(東京田中短期大学)「新自由主義教育改革における学校統廃合の研究」
3.御代田桜子(名古屋大学)「戦後日本における学校統廃合政策の構造変容」
4.山本由美(和光大学)「小中一貫校制度に着目した学校統廃合の日米比較研究」
5.中島勝住(京都精華大学)「学校統廃合と地域社会の変容に関する総合的研究」

このサイトは、「研究課題をさがす」と謳っているとおり、論文全文を読めるわけではありませんが、中には研究の概要が掲載されているものもあり、参考になります。
なお、CiNii Research で論文名を検索すると、全文が読める場合もあります。

🔶埼玉県内の学校統廃合に関する資料

(1)図書など
吉田功『廃校の行方 吉田功写真集』日本写真企画,2013
〇奥付のページに「撮影させていただいた廃校あり」。
2011年に廃校になった学校は次のとおり。  狭山市立入間小学校/小川町立下里分校/小川町立上野台中学校/東秩父村立白石分校/川口市立芝東小学校
埼玉県総務部統計課編『埼玉県学校基本統計 令和元年度 学校基本調査報告書』2020,P16-17
「小学校/学校数は…前年度より5校(公立)減少し…」とあるが、具体的学校名の記載なし。
(2)新聞記事
「思い出 胸に刻んで 川島 4小学校で閉校式典」『埼玉新聞 2018.3.29』
*「今月末で閉校となる川島町の4小学校(三保谷、出丸、八ツ保、小見野)で閉校記念式典が行われた」との記事。
「後輩前に熱く語る 春日部谷原中 ビビる大木さん講演」『埼玉新聞 2018.11.30』
*「谷原中は来年3月で廃校となり、中野中学校との統合が決まっている」との記事
「さよなら宝珠花小 春日部 145年の歴史に幕」『埼玉新聞 2019.2.18』
*児童数の減少に伴い3月末で閉校し145年の歴史に幕を下ろす春日部市立宝珠花小学校」との記事
「134年間ありがとう 飯能・東吾野小学校で閉校式」『埼玉新聞 2019.3.5』
*「飯能市の小中一貫市立校、奥武蔵創造学園の開d校に伴い統合される東吾野小学校で3日、閉校式が行なわれた」との記事
「名栗中 本年度で廃校 飯能市 原市場中に編入」『埼玉新聞 2020.8.28』
*「飯能市は27日、市立名栗中学校を本年度限りで廃校にし、同中に通う生徒は来年度から市立原市場中学校に編入すると発表した」との記事
「3小学校廃止へ 行田市 来年度に見沼小を新設」『埼玉新聞 2021.8.6』
*「行田市議会は臨時議会最終日の5日、(中略)市北部の北河原、荒木、須加の3小学校を来年3月末で廃止し、荒木小学校の場所に同4月1日から見沼小学校を新設する条例の一部改正や関連予算案を賛成多数で可決した」との記事
「学校統合 延期求める 開校予定保護者ら「市の説明、二転三転」」『埼玉新聞 2021.10.26』
*「行田市の荒木小学校と須加小学校が統合し、来年4月に荒木小の場所に開校する見沼小学校」との記事

レファレンスサービスで受けた情報としての新聞記事は「〇〇学校 思い出をありがとう」的な情緒的な見出しが多いようですが、最後の行田市の例(太字)は、「学校統廃合には問題が多い」とする市民側にとって、参考になるのではないでしょうか。
市議会でどう扱われたのか(次項(3)インターネット情報参照)、行田市教委がどのような対応をしたのか、もう少し深掘りすると新たな情報が得られるかもしれません。

【以下は上尾市図書館から提供を受けた新聞記事のコピー】
(PC閲覧の方:下部にズーム機能有)

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(3)インターネット情報
行田市HP》「ぎょうだ議会だより 令和3年9月発行」
*「行田市公立学校設置条例の一部を改正する条例」についての説明
「北河原小学校と須加小学校の複式学級解消のため、令和4年度から、北河原小学校を南河原小学校へ編入するとともに、須加小学校と荒木小学校を統合し、新たに見沼小学校を設置するため、条例の一部を改正するもの」との記載あり。
久喜市HP》「埼玉県内公立小・中学校の主な統廃合事例(平成12年以降)」
28_01sankoshiryo1.pdf (kuki.lg.jp)
川島町HP》「県内の小学校の廃止(統廃合を含む)状況一覧(H25.4.1現在)」
gattkoukibo_siryou3_1120.pdf (town.kawajima.saitama.jp)
「学校の統廃合に関する調査結果」(H26.2.27)16市町村回答との記載あり。
gattkoukibo_siryou5_0227.pdf (town.kawajima.saitama.jp)
埼玉県立図書館ウェブサイト》の中に
埼玉県内自治体議会会議録(リンク集)」がある。
ここから各自治体の会議録のページを〈小学校 & 廃校〉等で検索すると、関連資料が確認できる。

◎上記「埼玉県内自治体会議録(リンク集)」は、県内の自治体名が五十音順に並んでいるので、情報検索には使い勝手がよいのではないかと思います。

🔶レファレンスサービスは図書館の中心的サービスです
私が今回受けたレファレンスサービスについては、前記事で紹介した文献も含めて、以上のとおりです。
今さら言うまでもなく、「第3次上尾市図書館サービス計画」(下記参照)に示されているとおり、レファレンスサービスは今後の図書館の中心的サービスと位置づけられるべき「奉仕」なのですから、「言行不一致」にならないようにするためにも、今回のような丁寧な対応が引き続き求められると思います。



当ブログで指摘してきたとおり、20年ほど前の「公立図書館=無料貸本屋論争」は研究者・識者の間ではすでに決着をしており、議論の対象とはなりません。
すなわち、現
在、社会教育機関としての公立図書館の役割は、利用者がいかに「情報リテラシー」を獲得するか(=自らの学びのための情報に対して、どのようにしたら早く深く近づけるのか)、そのための支援をすることだと思います。
その意味で、上尾市図書館の果たす役割は大変重要であると私は考えます。