「水泳モデル事業」を利用したい市教委事務局 & 言いなりの教育長

4月25日、上尾市議会で「学校施設更新計画基本計画調査特別委員会(以下、「調査特別委員会」と略記します)」が開かれ、傍聴をしてきました。
この日は、「上尾市立学校の水泳授業 及び プール施設のあり方基本方針について(以下、「基本方針」と略記します)」を市教委事務局(主に教育総務課長と指導課長)が説明した後、議員からの質問を受けるという内容でした。
そのやり取りを聞いていて、見えてきたことがあります。それは、
❶市教委事務局は「水泳モデル事業」なるものを何が何でもやりたい、ということ。
❷しかしながら、その「水泳モデル事業」には問題点が多いこと。
❸西倉教育長の役割は、教育総務部長の思惑どおりに発言している、という事実です。

今記事では、「調査特別委員会」のやり取りから「水泳モデル事業」の問題点を浮かび上がらせ、市教委事務局はどういうことをねらっているのか、また、教育長はどういう役割を与えられているのか、などについてお伝えします(少し長いです)。

No.219

🔶「基本方針」の中身とは
当日の「調査特別委員会」は、市議会のHPで公開されています(所要2時間ちょっと)。
「教育委員会の定例会で決定済み」とした上での市教委事務局(教育総務課・指導課)の説明に対して、多くの議員から質問が出されました。
「お飾り」とも言える教育委員たちが相手ならマウントをとれても、議員の質問に対しては市教委事務局は苦戦しているといった印象を受けました。

市教委事務局が示した「基本方針」の中身は次のとおりです。

上尾市立小・中学校の水泳授業の実施にあたり下記のとおり基本方針を定める。
 地域の実情を踏まえ、民間プールや公営プールの活用、学校プールの共同利用などの方策を検討し水泳授業を実施する。
 なお、民間プールを活用した水泳授業の実施にあたっては、教育的効果等を検証するためモデル事業を実施する。

これだけでは、いったいいつ、どのくらいの規模で「モデル事業」なるものを実施するつもりなのかが分かりません。これについては、議員とのやり取りの中で、今年度に基本設計し、来年度にモデル事業を行う予定であることが示されました。

「調査特別委員会」では、「基本方針」の中に示された「モデル事業」について質問が多く出されました。それに対する市教委事務局の回答は曖昧さが目立ちましたが、強調されたのは「何が何でもモデル事業はやるんだ」という「前のめり」の姿勢でした。

🔶「モデル事業」の不透明さ
水泳授業のモデル事業について、市教委事務局は、「小学校なのか中学校なのか、低学年なのか高学年なのか、民間スイミングスクールからの距離が遠い学校なのか、それらについてはすべてこれから決める」と説明しています。
つまり、何も決まっていないということなのです。これでは、「そもそも、モデル事業をやる必要があるのか」という意見が議員から出されるのも当然です。

示されたスケジュールは以下のとおりです(PCでご覧の方で、字が小さく見にくい場合は、下部にズーム機能があります)。

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このスケジュールによれば、「選定会議」と称して、まずは市教委事務局のメンバーだけで決め、その後学校に打診して、6月~8月には選定することのようです。
どう見ても、市教委事務局主導であり、学校現場の意見を聞いているとは思えません。
その後は実務的に進め、来年度にはモデル事業を実施するつもりのようですが、小・中学校や学年、大規模校なのか小規模校なのか、何校が対象なのかも全く示されていません。

🔶様々な意見を聞くつもりがあるのか
議員からは「プール指導をしている教員の声を聞いているか」「子どもの意見を聞くのか」という質問も出されました。
これに対して、市教委事務局は「校長に聞いている」ということをもって、「学校の意見を聞いている」としています。しかしながら、これは大きな「勘違い」であり、実際に授業をおこなう教員による「現場の生の声」と、校長が市教委事務局に報告する「意見」なるものは、明らかに異なると言えます。
当ブログで再三指摘しているとおり、校長と市教委事務局とは極めて親和的な関係性であること、つまり市教委事務局の意向に沿わない意見を出すはずがないのです。
ですから、様々な機会に現場の教員の声を聞いている議員と、「校長の報告しか聞かない」市教委事務局とは、現場の声のとらえ方が違うのです。このことは、学校勤務のある指導課長あたりは分かっていると思いますが、あえて「校長の言うことしか聞かない」という態度に見えます。
しかも教育総務課長は、「モデル事業実施の前に子どもの意見を聞くつもりはない」と明言しています。何が何でもモデル事業を実施するという「前のめり」の態度がここにも表われています。

🔶「公平性」「平等性」の問題
市教委事務局は、民間スイミングスクールを利用する際に「学校からバスで15分以内」という条件をつけています(机上の計算とのことです)。
この結果、平方小・平方北小・平方東小・太平中・大石南中が外れるとのことで、「公平性」・「平等性」に疑問符がつきます。
これには、議員から「公平と言えるのか」との疑問が示されたのも当然です。
市教委事務局は、「わくわくランドを利用する手もある」「学校再編をして、拠点校に新しくプールを作り共同で利用するなどの対応もある」など、あてにならない苦しい答弁であるという印象を受けました。

🔶「実際に利用できるのか」という問題
資料には、民間スイミングスクール(SS
)について次の内容が示されています。

民間SS名称 学校利用可能時間
上尾スウィン(春日) 10:00~14:00(週4日間利用可能)
コナミスポーツ(北上尾)   8:30~15:00(休館日=水曜のみ利用可能)
ウイングSS上尾校(日の出) 10:30~14:00
スウィン大教(東大宮)   9:00~10:00

議員からは「これでは、水泳授業を民間スイミングスクールで実施することは不可能ではないか」という意見が出されました。
そうした指摘のとおり、学校利用時間を見ると、時間設定が昼をはさんでいたり、休館日しか使えなかったり、時間が短かったりという状況です。
市教委事務局は「これから各民間施設とは交渉します」と言いますが、こうした資料を出すのであれば、交渉してから「ちゃんと使える時間帯」を示すのが筋でしょう。
「お飾り」的な教育委員は説得できたとしても、議員や市民は「これでは無理ではないか」と思うのも当然です。

🔶教育長は教育総務部長の「言いなり」?
西倉教育長がこの「調査特別委員会」の席上で発言したのは、わずか1回のみでした。
それは、次のような内容でした。

指導課長そして教育総務課長からも答えているが、本市としては、水泳授業は命を守るための授業と考えているため必要なものであると認識している」というものです。

この教育長の発言について、市議会HPの中継録画では分からないですが、傍聴していた私は、あるシーンを目撃しました。それは、教育長発言の前に、後ろの席にいた小田川教育総務部長が、西倉教育長の肩を叩き、何やらメモのような紙を渡していたのです。
その直後、教育長が挙手をし、渡されたメモに書かれている文を読み上げました

つまり、「水泳授業は命を守るための授業と考えているため必要なものである」などと、表面的には「立派そうに聞こえる」発言ですが、その実態は、教育総務部長・課長主導による「水泳授業の民間プール利用を突破口にして、学校再編(統廃合)を推し進める」というメッセージであると言えます。その意味で、西倉教育長は、小田川教育総務部長の言いなりになっているのではないでしょうか。

🔶県内には水泳授業をやめた(やめる)市も
羽生市・加須市はすでに中学校での水泳授業をやめています。また、鴻巣市も今年度からとりやめるということです。羽生市では<学習指導要領の内容の取扱いに「適切な水泳場の確保が困難な場合には水泳を扱わないことができる」とあること>から、中学校での水泳授業をとりやめにしています。ですから、「是が非でも学校再編を推し進めたい」上尾市教委事務局は、教育長にメモを渡して発言させてまで、「何が何でも水泳モデル事業を実施したい」というのが本音なのだと思います。
現在のプールの状況を含めて、適切な水泳場の確保が困難というのであれば、冷静に水泳授業の必要性を議論すべきだと考えます。

🔶「全国の取組」の中に上尾市教委事務局が書かない「課題」
「調査特別委員会」で配布された資料『上尾市立学校の水泳授業及びプール施設のあり方検討報告書』には、「全国の水泳授業に関する新たな取組」として、佐倉市(千葉)・倉敷市(岡山)・常滑市(愛知)・鹿島市(茨城)の例が示されています。
ところが、いずれの例も「良い(と思える)ところ」しか記述されていないのです。
資料の中の倉敷市と常滑市の例は、文科省が「学校施設の集約化・共同利用に関する取組事例集として公表しています。両市の課題については以下のとおりとなっています。

倉敷市の課題(小中のプール共同利用)
*共同利用は、授業の調整や移動時間の検討が必要であることや、バズ移動を伴う場合は移動費用が必要であり、費用削減効果が小さくなることが見込まれることから、児童・生徒の多い学校では慎重な検討が必要である。
*プール清掃や水質管理などの維持管理の負担が、プールを共同利用する学校間で偏らないよう配慮・工夫する必要がある。
常滑市の課題(小学校プールは順次廃止。市営プールまたは中学校プールに集約)
*令和2年度から市営プールを使う学校が4校に増えるため、学校間での日程調整が難しくなる。
*屋外プールを使う学校では、天候不良等で水泳学習が実施できない日が出てくるため、予備日の設定が不可欠であるが、バスの移動費に関わるため、学校と相談して適正な日数を設定する必要がある。
*学校の周辺道路が狭くバスの乗入れができない学校もあり、バスの乗降場所や待機場所を検討する必要がある。
*〇〇中学校のプールについては、将来的に小学校3校と中学校1校の計4校で使用する計画をしているが、短期間のプール期間中に4校が使用することに対して日程調整で不安視する声もあるため、今後計画を見直す可能性もある。

以上のほか、文科省の資料には、民間プールを利用した例(佐賀県伊万里市)も掲載されています。伊万里市の課題についても見てみましょう。

伊万里市の課題(民間プールを活用)
*2単位時間連続で授業を行う工夫をしているものの移動時間は必要であり、実質的な水泳の時間が限られる。
*民間プールでは水泳の授業を教えることに偏りがちになるため、「自ら考えて練習する」ことや「主体的に運動に関わる」ことなど、体育の授業としてどのように実施するかについては、学校側と民間プール側との十分な協議が必要である。
*教員とインストラクターが指導内容等について事前に打ち合わせする必要がある。

このとおり、市教委事務局が「全国ではこのような取組をやっています」と「良いところ」を強調しても、課題は必ずあるというのが実態なのです。

今記事では、「調査特別委員会」でのやり取りを聞いて、いかに「水泳モデル事業」について問題点が多いかについてお伝えしました。
「学校再編」については「ゼロベースで見直す」はずなのに、「学校再編を行う」ことを前提にした「水泳モデル事業」については、当ブログでも引き続き強い関心を寄せていきたいと考えています。