上尾市電子図書館の「不都合な真実」

9月1日から<上尾市電子図書館>サービスが始まりました。すでに利用をしている方も多いと思いますが、その内容をよく見てみると、数々の「不都合な真実」が浮かび上がってきます。
今記事では、このことについてお伝えします。

No.183

🔶一見すると便利そうですが…
コロナ禍で、館内の滞在時間に制限があり、今は図書館に行きにくいという利用者にとっては、<上尾市電子図書館サービス>は確かに便利な面もあります。
ただ、実際に本を読むのと、画面を通すのでは、「本を読んでいる感じがしない」という方も多いのではないかと私は思うのですが、実際は、電子図書館のトップ画面に掲載されている「新しく追加された作品」の中には、「予約可能」つまりすぐには見られない本(資料)もあり、それらについては順番待ちという状況です。
しかしながら、選書などの点についてはどうでしょうか。本当に利用者向けになっているのでしょうか。

🔶電子図書館利用の際の「ルール」とは?
まず、確認しておきますが、上尾市電子図書館利用の「ルール」とは、おおむね以下のとおりです。
🔷上尾市図書館の利用カードが必要。
🔷カード番号とPW(西暦誕生年月日)でサインイン。
🔷サインインは初回のみ。
🔷貸出点数・予約点数 ともに3点以内。
🔷貸出期間 2週間以内。
🔷借りている資料の予約者がいない場合、延長可。
🔷予約者がいる場合、再予約可。
🔷期限を過ぎた資料は自動返却(自分で返却も可)。
これらを見る限り、利用すること自体は簡便であると言えます。

🔶<電子図書館>の「不都合な真実」
ここからが「不都合な真実」のオンパレードになるのですが、資料の中身を見ていくと、大いに疑問符がつきます。

*「新しく追加された作品」って何?
電子図書館トップ画面に掲載されている「新しく追加された作品」は1000件となっています(1000件以上無く、実数のようです)。

8月の「お試し期間」の後、9月1日から<電子図書館>の利用が開始されています。「新しく追加された作品」とは、いったい何時から見て「新しく追加された」のでしょうか。少なくとも、9月1日のサービス開始日の時からは、画面が変わった様子はありません。
また、「追加された日付」というメニューが<電子図書館>の中にあるのですが、7日以内=0,14日以内=178,30日以内=237,3か月以内=1000,6か月以内=1000となっていますので、総計は、軽く1000点を超えてしまいます。つまり、数が合わないのです。

*資料の多くは「青空文庫」から
私が<電子図書館>の「不都合な真実」のひとつだと考えているのは、資料の多くが「青空文庫」から引っ張ってきたという点です。
電子図書館トップ画面には、【テーマ】と【コレクション】とあり、それぞれ資料(本)が区分されています。
コレクション】→【新しく追加された作品】→【フィクション】に進むと、読める本の総数は787冊となっています。ですが、実際には、694冊は「青空文庫」からの本であり、<上尾市電子図書館>として独自に掲載している本は93冊しかないことになります。率にすると、僅か11.8%に過ぎません。

もっと驚くのは、【テーマ】をクリックすると、「全31,361作品」とあり(これも数が全く合いませんが)、その中に【文学 11,396件】と記載されています。この11,396件の内訳は以下のとおりです。
〇独自掲載資料 64件 〇洋書 118件 〇青空文庫 11,214件
なんと、青空文庫が98.4%を占めているのです。

*「青空文庫」とは?
<上尾市電子図書館>の本の大半を占める「青空文庫」とはなんでしょうか。青空文庫のサイトでは、次のように説明されています。

青空文庫は、誰にでもアクセスできる自由な電子本を、図書館のようにインターネット上に集めようとする活動です。
著作権の消滅した作品と、「自由に読んでもらってかまわない」とされたものを、テキストとXHTML(一部はHTML)形式に電子化した上で揃えています。

もっと詳しい説明や、どんな本が読めるかは⇒「青空文庫」サイトへ。

「青空文庫」から入った場合は、読み放題・無料です。
<上尾市電子図書館>の青空文庫の本は、冊数・期間に制限が設けられています。そこが大きな違いと言えます。

具体的に夏目漱石の作品を例に見てみましょう。

「青空文庫」で読める漱石の作品数は110冊です。

<上尾市電子図書館>で「夏目漱石」を検索すると448件と表示されます。ところが、実際の漱石の作品数は77件しかないのです。
残りの本は、「漱石論」はまだしも、夏目漱石の「夏」や「石」を含む全く別の作品が掲示されます。これも「不都合な真実」と言えます。

おそらく、漱石だけでなく、他の作家について検索しても同様の結果となると思われます。つまり、漱石を電子版で読もうと思ったら、実際の「青空文庫」サイトのほうが使い勝手が良い、ということになります。

*他にもこんな点が…
資料の全体を見ても、洋書(英語版)の割合が多いように思えます。
もちろん、日本語よりも英語のほうが読みやすい、という利用者もいるでしょうが、実際には洋書は「貸出可能」となっており、洋書を借り受けている人は今のところほとんどいないようです。

また、【テーマ】や【コレクション】の区分が、何を基準にしているのかよくわかりません。「アフリカ系アメリカフィクション 1冊」とあるので見てみると、『Uncle Tom’s Cabin』(アンクル・トムの小屋)の洋書が掲載されています。これも「貸出可能」の本です。


◎以上、今記事では、<上尾市電子図書館>サービスの「不都合な真実」を見てきましたが、『上尾市図書館第3次サービス計画(R3~R7年度)』の中では、次のように謳われています。

非来館型サービスとして有望な電子書籍を導入します。

冒頭で述べたように、実際に本を手に取って読むのと、PC画面などで見るのは違いますが、コロナ禍ということもあり、資料(本など)が豊富に揃っていて、図書館に行かずに自宅のPCなどで読めることは便利であるとも言えます。

まだ始まったばかりのサービスですが、現状のように、「青空文庫」に頼るのではなく、資料の充実を望むものです。