図書館長の「つれない返事」は「上尾市の現状からは、さもありなん」追記あり

市民のブログ「かまちょ図書館」に、興味深い記事 <埼玉県市立図書館の開館日数> が掲載されています。

「毎週月曜の休館日の見直しを」という市民からの要望に対して、上尾市図書館長からは、「休館日の設定は標準的な範囲であるのでこれまでどおり」という「つれない返事(=ゼロ回答)」が届いたそうです。

ただ、残念ながら、上尾市図書館の運営や利用者サービスに関して私が情報公開請求して得た情報や、すでに公開されている資料等を見れば、このような返事は、「上尾市の現状では、さもありなん(今の上尾市なら、そうした答は予想できる)」と言わざるを得ません。
今記事では、この話に関連して、上尾市図書館の運営面や、利用者サービスについて考えていきます。

【追記】
当ブログ「お問い合わせ」経由で、次の情報をいただきました。

8月2日第1回図書館協議会が行われました。
その時、資料3 事業計画及び進捗管理について では、
第2回図書館協議会は10月〜11月に行う計画になっていました。

何のお知らせもないので、今日図書館に電話しました。
すると第2回10〜11月は中止で、第2回図書館協議会は2月に行うことがわかりました。

念のために「資料3 事業計画及び進捗管理について」をHPで確認したら、驚いたことに第2回図書館協議会の文字が薄くなっていました。これだけで 第2回図書館協議会は行われないと 市民が判断できるか疑問です。
ご存じのことかもしれませんが、お知らせします。

文中「資料3 事業計画及び進捗管理について」は以下のとおりです。

少し見にくいですが、「第2回図書館協議会」については、確かに字が薄くなっています。
この情報を受け、私も上尾市図書館に問い合わせましたが、今年度の図書館協議会はあと1回、2月に開催する予定のようです。
つまり、最初から開催する気はなかった?
当初の予定と違ったのですから、今からでも「2月に開催予定」と図書館のHPに書いたほうが良いのではないか、と伝えました。

No.196

🔷コロナで「図書館開館日数」は変則的に
当該記事の出典は、直近(2020年度)の埼玉県図書館協会のデータ(開館日数、来館者数、登録者数、貸出冊数)(PDF)です。なお、同じものがエクセルデータでも公開されています。

上尾市は、市内9館(本館・分館・公民館図書室)については、すべて開館240日+特設窓口設置18日ということになります。

ですが、たとえば蕨市図書館では、開館240日+特設窓口37日であり、トータルでは上尾市より開館日数が多いことになります
また、蕨市は、本館のほかにも3館あり、それらの開館日数はいずれも280日となっています(特設窓口設置無し)。
昨年度の開館日数をカウントする場合は、特設窓口の設置をどう捉えるかによって日数が変わってきます。もちろん、図書館の役割は資料の貸出・返却だけではありませんから、コロナ禍の中でどれだけ利用者の利便性が保たれたのかが問題となります。

その意味で、「かまちょ図書館」の記事は大変興味深く参考になりますが、コロナの影響により、昨年度の開館日数は、各図書館とも極めて変則になったと言えます。また、こうしたデータは、ともすれば本館(中央館)を例に挙げがちですが、実際には、各市には分館や公民館図書室があることも考慮する必要があると私は考えます。

🔷司書資格を有していない上尾の図書館長
では、なぜ市民からの問い合わせに対して、上尾市図書館の館長から「つれない返事」だったのでしょうか。

それには様々な理由があり、いずれも上尾市図書館の抱える本質的な問題点が表出した結果だと考えられます。

まず、「上尾市図書館長は、司書資格を有していないから」。
つまり「本気度の問題」だと私は考えています。
従前から、上尾市では「ジョブローテーション」で、同じ部署に数年しかいないということが弊害として指摘されていますが、上尾市図書館に異動となった館長は、前例踏襲主義で、「従来通り」を繰り返していくことになるのではないかと思います。
なお、当ブログでは「上尾市図書館には、図書館法で規定する職名としての司書・司書補は存在しない」ということを指摘してきました。
ですが、そのことと、「図書館長が司書資格を有していない」ということは、「似て非なる」問題です。

ただし、中には、図書館に異動となったことから、司書資格を取得した職員の方も存在するということも私は知っていますので、今記事は、図書館長にかかわる話ということでお読みください。

「図書館史」的観点に立てば、図書館長の司書有資格の規定については、「地方分権一括法」(地方分権の推進を図るための関係法律等の整備に関する法律)が1999年7月に成立した結果、図書館法も、国庫補助金の要件である最低基準や、同じく国庫補助金の要件である館長の司書有資格の規定等が廃止されたという経緯があります。

日本図書館協会が毎年度発刊している『日本の図書館 統計と名簿』を見れば、全国の図書館長が司書有資格者であるか否かがわかります。
このことは、埼玉県図書館協会の資料には掲載されていません。
(上尾市図書館にも『日本の図書館 統計と名簿 2020』の蔵書はありますが、「参考書」のため、借りた翌日に返却しなければなりません。)

『日本の図書館 統計と名簿 2020』(354~359頁)を見ると、次の事項が公開されています(内容の一部を例示してみました)。

図書館名 館長名 司書資格
上尾市図書館(市内9館) 島田 栄一(9館とも)
朝霞市立図書館 猪股 敏裕
朝霞市立北朝霞分館 榎本  隆
桶川市立中央図書館 小野寺勝郎
桶川図書館・川田谷図書館 後藤 貴志
川越市立中央図書館 鳥海 睦美
川越市立西図書館 横田早百合
川越駅東口図書館 桺 純子
川越立高階図書館 今井 眞理
志木市立柳瀬川図書館 桜谷 玲子
志木いろは遊学図書館 樺嶋 秀俊

このように続いていきますが、埼玉県内市立図書館の本館・分館別に、「館長の司書資格の有無」をまとめると、次のようになります。

館区分(さいたま市含む) 司書有資格館長
本館(中央館) 司書有資格館長  40市中/18市
有資格でない館長 40市中/22市
分館・分室(兼務含む) 司書有資格館長   67館
有資格でない館長  34館

 これにより、本館(中央館)の館長で司書有資格者は半数弱であり、分館の館長には司書有資格者が多いという実態が見て取れます。

🔷「図書館の運営方式」との関連性
上尾市図書館のカウンター業務は、現在、(株)ナカバヤシに業務委託しています(今年度から3年契約になりました)。
委託の内容は、契約書および「委託業務仕様書」等によりますが、情報公開請求で入手した「仕様書」を見ると、「直接業務費」が「平日」「休館明け」「夏季平日」「土日祝」に分かれて算定されています。
つまり、「仕様書」は、「休館日は毎週月曜日」ということを前提にして定められていることになります。

上尾市図書館の館長の回答は「休館日の設定は標準的な範囲であるので、これまでどおり」というものですが、本音のところは「委託先業者との間で交わした仕様書で定められているので、少なくとも向こう3年間は現状どおり」ということだと考えられます。
この実態を突き崩して、開館日を増加させるのは、現状ではかなりハードルが高いと言えます。広範な市民の力や要求を結集し、同時に市議会でも質問や要望を重ねていく必要があるでしょう。

🔷県内には、休館日を変更した市も
埼玉県内の図書館の「運営方式」は、おおむね次の5種類に区分することができます(ブログ筆者調べ:2019年度)。

運営方式の種別 導入している市
直営のみ(11市) 行田・加須・本庄・草加・蕨・朝霞・志木・和光・蓮田・坂戸・白岡
直営+指定管理(8市)
※本館直営、分館・分室が指定管理
所沢・狭山・越谷・入間・新座・八潮・三郷
直営+業務委託(2市)
※本館が直営のみ、分館が業務委託
秩父・飯能
指定管理のみ(11市) 春日部・鴻巣・戸田・桶川・久喜・北本・富士見・幸手・鶴ヶ島・吉川・ふじみ野
一部奉仕外部委託方式のみ(8市)
※カウンター業務等奉仕を外部に委託
上尾・川越・熊谷・川口・東松山・羽生・深谷・日高

もしかしたら、私が調べた時から2年経過しているので、運営方式を変更した市があるかもしれませんが、図書館の運営方式そのものが、利用者へのサービスと密接に関連してくる場合もあります。

たとえば、日高市では、図書館の一部奉仕を外部委託したことにより、休館日が少なくなりました。公表されている日高市の『図書館要覧』の中の「図書館の沿革」を見るとそれがわかります
※日高市図書館の一部奉仕外部委託先は、株式会社図書館流通センター(TRC)です。

2017(平成29)年4月 図書館サービスの変化(日高市図書館)
休館日 毎週月曜日 ⇒ 毎月最終月曜日に変更
開館時間 火~金 9:30~18:00
土・日    9:30~17:30
⇒ 開館日は 9:00~19:00 に延長
市職員数 3人(3人減員)

このように、休館日が毎週月曜日から毎月最終月曜日となり、開館時間も延長されましたが、その一方、市職員は半減となってしまいました。

上尾市の場合、「一部奉仕について外部への業務委託」の開始時期は、2006(平成18)年の駅前分館開設からです(上尾市都市開発株式会社に業務委託)。
休館日を変更するのであれば、その時と、委託業者をナカバヤシに変更した時(2020年4月)がチャンスであったと考えられます。ですが、上尾市は日高市のように利用者サービスを優先したとは言えません。

だからと言って、私は、図書館の一部奉仕(利用者サービス)を外部の業者等に委託することについては懐疑的です。外部委託の一番の弊害は、「本来、利用者と接するべき市の職員が、奥の事務室に引っ込んでしまった」ことにあると考えています。
したがって、「第〇次図書館サービス計画」などを策定するにあたっては、利用者の声や図書館の利用状況について、実際に聴いたり目の当たりにしたりすることが必要なのではないかと思われます。こうした運営面をどうするかについての議論も、上尾市では従来から不足していると言えます。市民アンケートの内容を見てもそのように思います。

🔷図書館問題は、「サービスの中身」での議論を
周知のとおり、上尾市では上平地区複合施設検討委員会でも委員から疑問が出されるなど、市民的コンセンサスには程遠い状況があります。
また、上尾市図書館協議会を傍聴していても、私は毎回「物足りなさ」を感じます(市民公募による利用者代表が図書館協議会に入っていないことも何とかしなければならないと思います)。

上尾市図書館については、「本館をどうするのか」「建物はこのままでよいのか」など、施設面での課題が解決していないのが現状です。
一方、現在の上尾市図書館における「レファレンス」や「電子図書館」などが本当に利用者のためのサービス(図書館奉仕)になっているかの検証も十分とは言えません(電子図書館については以前の記事参照)。

上尾市図書館が教育委員会の管轄であり、市民のための情報リテラシーを高めることも市立図書館の責務であるということを、あらためて確認し実践に結びつけることが重要です(そうした取組は行われるようになりましたが、単発で終わるのではなく、継続する必要があります)。
こうした市立図書館の運営方式の問題と利用者サービスのあり方については、今後も記事にしていく予定です。