黒塗りされた会議録 —「不当に混乱を生じさせる」のは市教委では?
上尾市教育委員会による「小規模校潰し」がますます明らかになりつつある「学校施設更新計画基本計画」。
この「計画」は、上尾市役所内に設置された「検討委員会」を経て教育委員会定例会に示されています。そこで、先月(市民からの意見募集の〆切後)、「検討委員会」の会議録について情報公開請求しました。
その結果は、「発言内容を開示すると不当に混乱を生じさせるため、非公開処分」というものでした。今記事では、情報公開請求についての市教委の対応がいかに「不当」なものであるかについてお伝えします。
No.265
🔶「上尾市学校施設更新計画検討委員会」って何?
この検討委員会は、「上尾市学校施設更新計画検討委員会設置規程」により、教育総務部長を委員長として、市役所各課からの27名で構成されています。
その名簿は以下のとおりです。
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正直、「よくこれだけ課長クラスの職員を集めたものだ」と思わせるメンバーです。
しかしながら、不思議なのは、市民や保護者へのアンケートに対して、あれだけ「誘導質問」ではないかと議会や市民から指摘されたにもかかわらず、この検討委員会の誰ひとりとして「アンケートが誘導的ではないか」「少し文言を変えたほうが良いのでは」という発言をしていないことです(このことは、情報公開請求への処分通知の手交の際に教育総務課職員から口頭で確認しました)。
まさに、当ブログNo.232記事「誘導的設問が多い市民アンケートは作成者側の《集団浅慮》が主要因」で指摘したとおりの状況となっていると言えます。
🔶黒塗りされた「会議録(要点記録簿)」
情報公開請求の結果、次の文書「行政文書一部公開決定通知書」が手交されました。
(PC画面でご覧の方は、下部にズーム機能があります)
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そして、「一部公開」とされた「会議録(要点記録簿)」は次のとおりです。
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「検討委員会」は第4回まで行われていますが、全て発言は黒塗りとされました。
🔶「公開できない理由」とは何か
上記の「行政文書一部公開決定通知書」の備考欄を見ると、次のように書かれています。
公開できない部分及び理由(行政文書一部公開決定通知書の「備考欄」) |
要点記録簿の発言内容は、意思決定に係る手続きの途上にある情報であって、その内容が未成熟であり、それを知った市民に不正確な理解や誤解を与え、不当に混乱を生じさせるおそれがある情報に該当するため、上尾市情報公開条例第7条第6号の規定により、公開できない。 |
理由に示されている「上尾市情報公開条例第7条第6号」を確認してみましょう。
上尾市情報公開条例第7条第6号とは |
第7条 実施機関は、公開請求があったときは、公開請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「非公開情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、公開請求者に対し、当該行政文書を公開しなければならない。 |
(6) 市及び国等の内部又は相互間における審議、検討又は協議に関する情報であって、公にすることにより率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ、不当に市民の間に混乱を生じさせるおそれ又は特定の者に不当に利益を与え、若しくは不利益を及ぼすおそれがあるもの |
つまり、上尾市教育委員会が検討委員会の発言を「非公開」とした理由は、「不当に市民の間に混乱を生じさせるおそれ」があるから、ということのようです。
🔶会議録の公開によって市民の間に混乱が生じるのか
もうひとつ、「不当に市民の間に混乱を生じさせるおそれ」に関する資料を確認してみましょう。上尾市が発行している『情報公開・個人情報保護手引書』(市図書館&市役所情報公開コーナーに置いてあります。ただし貸出不可)に、次の記述があります。
上尾市『情報公開・個人情報保護手引き書』P58より |
6 「不当に市民の間に混乱を生じさせるおそれ」とは、意思決定の途上にある未成熟な情報を公開すること又は情報を尚早な時期に公開することにより、市民に誤解や憶測を与え、不当に混乱を生じさせるおそれをいう。 |
8 「不当に」とは、情報を公開することの公益性を考慮しても、公開に予想される支障が看過し得ない程度のものであることをいう。予想される支障の程度が「不当」なものであるか否かの判断は、支障の及ぶ範囲、深さ、回復性、必然性、その他の支障の内容をあらゆる角度から検討した上で、当該情報の性質に照らし、公開することにより得られる利益と非公開とすることにより守られる利益との比較衡量により判断するものである。 |
上尾市教育委員会は、今回の情報公開にあたり、この『手引書』の記述にあるように、「支障の内容をあらゆる角度から検討した上で」黒塗りとしたのでしょうか。非常に疑問です。
🔶研究者の見解 & 大阪高裁判決では
では、「不当に」という言葉に関して、研究者の見解や判例ではどう扱われているのでしょうか。まず、研究者の見解です。
宇賀克也(東京大学大学院教授)論文「意思形成過程の公文書の作成・保存と情報公開」より |
…この「不当に」という言葉は、説明責任の観点から情報を開示することによる利益と、開示によってもたらされる不利益とを比較衡量(※)するためのキーワードです。 この比較衡量により、開示することによる利益が開示することによる不利益より大きいのであれば、不開示にできないことになります。 それから、「おそれ」という言葉が使われていますけれども、単なる確率的な可能性ではなく、法的保護に値する蓋然性がなければ「おそれ」があるとは言えません。このように非常に限定した不開示情報にしているわけです。 |
(※)比較衡量(ひかくこうりょう): 対立する当事者の権利・利益を天秤にかけて、どちらがより重いかを判断する手法のこと。 |
次に、大阪高裁の判例です。
大阪高等裁判所 平成5年3月23日判決より |
…そして、公文書の非開示は例外的場合に限られることからすれば、上記の「おそれ」とは、意思決定の中立性が不当に損なわれるなどの危険が存することの抽象的危険性・可能性では足りず、少なくともそのような危険が存することの客観的かつ具体的な危険性・可能性が認められる必要があるものと解される。 |
このように、研究者の見解や判例では、表現こそ多少の違いはあるものの、「不当に市民の間に混乱を生じさせるおそれ」というからには、当局は具体的にどのようなおそれがあるのか住民(情報公開請求者)に対して示す必要があると述べているのです。
🔶「不当に混乱を生じさせる」のは市教委では?
「学校施設更新計画基本計画」によって「小規模校潰し」を画策するなど、「市民に混乱を生じさせている」のは上尾市教育委員会であることが明らかになってきています。
今記事の冒頭で述べたように、今回の情報公開請求は、2023.02.05 すなわち「公述人募集」や「市民からの意見募集」の募集〆切後におこなっており、「行政文書一部公開決定通知書」が手交されたのは2月17日です。
このタイミングで会議録を公開することが、なぜ「市民に不正確な理解や誤解を与え、不当に混乱を生じさせるおそれがある情報に該当する」のか、当ブログでは引き続き「審査請求」を含めて情報公開請求をしていきます。