「いじめ重大事態」問題について私たちが心に留めておくべきこと

上尾市議会最終日(12/25)に、市民から提出された請願が賛成多数で採択されました。
請願の件名(題目)は「上尾市いじめ問題調査委員会 調査に関する請願」です。
新聞やネットニュースでも取り上げられたので、請願が採択されたことをご存知の方も多いのではないでしょうか。事実、私(当ブログ館主)にも、市民の方たちから「新聞に出ていましたね」という声が届いています。
この請願は私が提出したものではありませんが、「いじめ重大事態」についてあらためて考える必要があるということを市民が提起したという点で、大変意味があります
今記事では、「いじめ重大事態」問題について、私たちが心に留めておくべきこと、知っておくべきことについてお伝えします。
長めの記事ですが、過去記事やリンク先も含め、じっくりとお読みください。

No.305

🔸採択されたのはどのような請願なのでしょうか
端的に言えば、昨年度市内のある中学校で起きた「いじめ重大事態」について、
① 調査委員会の調査が不十分。
②「いじめ問題調査委員会」の委員の資質に疑問がある。
③ 『調査報告書』に書かれていない事実がある。
④事実不明確のまま関係職員の「処分」が決定されかねない。
以上の理由により「再調査」を要望する、というものです。

この請願については、すでに上尾市議会のHPで「採択された請願」として公開されています。議会での賛否は、賛成18名 反対8名 棄権(離席)1名でした
なお、請願の提出理由や市教委事務局の見解、参考人(請願提出者)の説明については12/14の文教経済常任委員会の録画を視聴するとよくわかります。出席委員から多くの質問や意見が出されましたが、委員会では最終的には「全員賛成(委員長は採決に加わっていません)」という結果でした。
一方、この請願についての賛否の判断は難しい面があると思われます。請願提出者が言うように、「事実関係がすべてが明らかにされているわけではない」からです。
しかしながら、当ブログでも何度かこの問題について取り上げてきましたが、
徹底的に被害者側の立場で考える
という姿勢を貫けば、請願への賛否をどうするかは明らかでしょう。

🔸新聞報道では
私が目にしたのは朝日新聞埼玉版とネットニュースですが、埼玉新聞電子版には請願の扱いについての事実関係が掲載されています。
この新聞記事の最後に、[採択を受けて、坂本泰孝副市長は取材に対し「報告書を改めて精査し、再調査をするかしないかを含め検討したい」と話した]と書かれていることに疑問を感じた方がいるかもしれません。「なぜ副市長がコメントするのか? 教育長ではないのか?」という疑問ではないかと思います。
このことについては、「いじめ重大事態」については、上尾市の条例で「調査委員会」と「再調査委員会」とが定められていることを理解する必要があります。

🔸いじめ問題「調査委員会」と「再調査委員会」の違い
市議会で請願についての反対討論をした議員からは「再調査委員会ではなく再々調査委員会ではないか」との発言がありました。このことについて整理してみます。
目を通す必要があるのは、「上尾市いじめ問題対策協議会等の設置に関する条例」です。
上尾市のいじめ問題対策の組織は、以下のとおりです。

名称 現状 備考
いじめ対策チーム等(各学校) 既設置 各学校の「いじめ防止基本方針」に基づく。
今年度より改定の学校あり。
いじめ問題対策連絡協議会
(条例による)
既設置 委員20名。
下記 調査(再調査)委員会とは別組織
いじめ問題調査委員会
(条例による)
既設置 教育委員会主導で、年度当初に設置。
昨年度のいじめ重大事態を受けて初めて機能した。
いじめ問題再調査委員会
(条例による)
未設置 市長の諮問に応じ、調査を行う

「上尾市いじめの防止等のための基本的な方針(※2023年11月改訂)」に基づき、各学校では「いじめ対策チーム(従来の  ✖✖学校 いじめ調査委員会)」を組織しています。
今回の「いじめ重大事態」は、校長と学校内の「いじめ調査委員会」等の対応に被害者側が強い不信感を訴えたため、すでに上尾市に設置されていた「上尾市いじめ問題調査委員会」を機能させたというのが経緯です。
上の表のとおり「いじめ問題調査委員会」の役割は「市長の諮問に応じ調査を行う」ことであり、必要があると認められれば設置されます。委員は市長が委嘱します(桶川の例では「いじめ問題調査委員会」とは全く別の委員が就任)。
したがって、条例上は「いじめ問題再々調査委員会」は存在しません

🔸当ブログで指摘してきた「調査委員会」等にかかわる問題
当ブログでは「いじめ問題調査委員会」の委員の不可解な人選について「これはおかしいのではないか」と4年前から警鐘を鳴らしてきました。また、「いじめ重大事態」についても、被害者側の立場から考える投稿をしてきました。

当ブログNo.と投稿日 記事のタイトルなど(青字クリックで記事に飛びます
No. 40(2019.11.20) 上尾市教育委員会の不都合な真実 ーいじめ調査委員の選出経緯の闇ー
*元上尾中校長の井川隆氏がなぜ「いじめ問題調査委員」に選ばれたのか、全く不明かつ不可解 など
No.130(2020.12.12) 学校での「いじめ防止」に逆行する、細野教育長職務代理者の<識見>とは
*教育長職務代理者(当時)の細野宏道氏は、市教委の「いじめ防止」の方針とは真逆な持論を得意げに披歴 など
No.253(2022.12.23) 市教委事務局(指導課)の「隠ぺい体質」が露呈し、[審査請求]へ
*「いじめ問題調査委員会」の会議録2回分を情報公開請求したところ、全面非開示に。「審査請求」の結果、各1ページ目が公開に など
No.260(2023.02.09) 上尾市に設置されている「いじめ問題調査委員会」の役割と人選とは
*「いじめ問題調査委員」の内4名は委員歴が10年になること。
他1名は元校長で選任過程が不可解。調査委員会の出欠状況 など
No.266(2023.03.25) 情報公開請求により「いじめ問題調査委員」の杜撰な任命の状況が露見
*上尾市教育委員会は、「いじめ問題調査委員会」の5名の委員について、誰ひとり推薦依頼をせずに任命していたという事実が露見した など
No.288(2023.08.30) 「いじめ問題」上尾市教育委員会は被害者側の要望に沿った対応をせよ
*「いじめ重大事態」問題について、時系列で整理。市教委が公表した見解は事実と異なる。被害者側の要望に沿った対応をすべきである など
No.289(2023.09.08) 《いじめ問題》で市長・教育長らは自分たちの無責任さを認め謝罪を
*当ブログは「あの件は終わり」などという状況にはさせない。市長と教育長らは被害者側に直接の謝罪をすべきである など
No.290(2023.09.17) 「いじめ認定」が調査委員のメンバー構成によって変わった桶川市の例
*桶川市の事例での「いじめ調査委員会」と「再調査委員会」の人選は全て入れ替わった。両者の違いは「元校長」を委員から排除したこと など
No.292(2023.10.06) 市教委事務局から「完全にコケにされた」教育委員たちの《資質》とは
*「いじめ重大事態」が起きていたことを、市教委事務局(学校教育部長)は教育委員に伝えていなかったことが露見 など

🔸「地教行法」から見た教育長の責任とは
教育行政をすすめていく上での重要な根拠法令として「地方教育行政の組織及び運営に関する法律(地教行法)」があります。
地教行法の第11条8項は次のように定められています。

地方教育行政の組織及び運営に関する法律(地教行法)第11条第8項より
教育長は…(中略)…児童・生徒の教育を受ける権利の保障に万全を期して当該地方公共団体の教育行政の運営が行われるよう意を用いなければならない。

この条項について、木田宏『逐条解説  地方教育行政の組織及び運営に関する法律』では、次のように解説しています。

木田宏『逐条解説  地方教育行政の組織及び運営に関する法律』より該当部分を引用
(前略)…平成26年の改正により、本項は教育長を対象とした規定として改正(委員については第12条で準用)されるとともに、深刻ないじめや体罰の問題など、児童生徒等の教育を受ける権利に関わる問題の発生を防止することの重要性を踏まえ、教育長は教育を受ける権利の保障に万全を期して教育行政の運営を行う必要がある旨を規定した。

では、今回の「いじめ重大事態」問題で、教育長は「(生徒の)教育を受ける権利の保障に万全を期した」のでしょうか。『調査報告書』を見てみましょう(マスキングされている部分が多く、分かりづらいですが)。

上尾市いじめ問題調査委員会『調査報告書』P12より

この後、被害生徒は登校できないまま中学校を卒業していくことになります。
つまり、教育長は、加害生徒の教育を受ける権利は保障したが、被害生徒の教育を受ける権利の保障に万全を期したとはとても言えないのです。
このことからも、教育長の責任は厳しく問われなければなりません。

🔸「点検評価報告書」での[第三者評価者からの意見・提言]
令和5年度 上尾市教育委員会の事務に関する点検評価報告書(令和4年度事業対象)』という資料が公表されていることをご存知でしょうか。
この資料の見どころは、市教委による「大甘な自己評価」に対して、どのような第三者評価(意見・提言)がされているかに尽きます。それぞれの施策に対する評価は「誰が言っているのか」は明らかにされていませんが、大した根拠無しにやたらほめまくる「元校長」の意見はすぐ分かります。
「いじめ重大事態」についての「元校長」以外の方と思われる第三者評価者の意見・提言を見てみましょう。

上尾市教育委員会『令和5年度上尾市教育委員会の事務に関する点検評価報告書(令和4年度事業対象)』P22より

見ると、事業8については「先送り構造であり、見直しのない評価」と指摘しています。
[いじめ対策等生徒指導推進事業]に関しては、上尾市教育委員会の自己評価では「様々ないじめ問題に対する対策に取り組み成果を上げることができました」と書かれていることに驚きますが、「元校長」ではない第三者評価者にも奇異に思えたのでしょう。それゆえに上記の意見・提言になったと思われます。

🔸「いじめ重大事態」の検証の必要性
今記事の冒頭で、私は、議会で採択された請願について「市民が提起したという点で、大変意味があります」と述べました。
この問題に関し、私は、明らかにされていない点について引き続き情報公開請求をしていく予定です。
その場合、「上尾市個人情報保護条例」にしたがって開示・不開示の決定がされることは当然ですが、一方で、文科省が示している『いじめの重大事態の調査に関するガイドライン』では、「学校の設置者及び学校は、いたずらに個人情報保護を盾に説明を怠るようなことがあってはならない」とされています。
「いじめ重大事態」について、あらゆる角度からの検証がされるという前提のもとで、具体的な「再発防止」のための方策が考えられるべきではないでしょうか。
さらに、重大な問題が残っています。
それは、市長も教育長も直接被害者側に謝罪をしていないという事実です。
当ブログでは、引き続きこの問題について被害者側の立場に立って強い関心を寄せていきます。